
企業価値を高める知財戦略|立案から実行までの完全ガイド
2025-06-27
特許訴訟のすべて|リスク回避から戦略的対応まで徹底解説
2025-06-27海外特許の出願戦略|2つの主要ルートを解説

海外市場に製品を出した途端、コピー品が出回って技術がただ同然になる。制度も費用も読めずに出願へ踏み切れず、焦りだけが募る。こんな悩みを抱える経営者や知財担当、研究開発担当者は少なくありません。
本記事では、海外特許取得の基本を整理し、パリ条約に基づく直接出願と国際出願(PCT)の特徴と向き不向きを比較します。
読み進めるうちに、限られた予算と時間をどこに投入すべきか具体的な判断基準が見えてくるはずです。
海外特許とは
「海外特許」と聞くと、ひとつの特許で世界中の権利を守れるような印象を持つかもしれません。しかし実際には、そうした世界共通の特許というものは存在しません。
特許制度は各国ごとに異なる法律に基づいて運用されており、その効力も原則として、その特許を取得した国の中だけで認められます。つまり、特許の権利は国ごとに個別に成立する仕組みになっているのです。
そのため、日本で特許を取得したからといって、アメリカやヨーロッパ、中国など他国でも自動的にその技術が保護されるわけではありません。海外で自社の技術を確実に守るには、それぞれの国で特許を出願し、審査を受け、個別に権利を得る必要があります。
手間も費用もかかりますが、これは海外展開を視野に入れる企業にとって避けて通れない知的財産の基本課題です。
参考文献:Paris Convention for the Protection of Industrial Property
なぜ海外での特許取得が必要なのか
自国の特許だけでは海外で自社の技術を守ることができません。世界市場に出るなら、どの国でいつ特許を取るかを戦略的に決める必要があります。
ここでは、模倣品の排除、ライセンス収益の拡大、現地参入障壁の構築という視点から、海外特許が欠かせない理由を整理していきます。
模倣品対策
2021年における世界の模倣品取引は、推計4,670億ドル(約68兆6490億円、1ドル=147円換算)に達し、これは世界貿易全体の2.3%を占めています。
EU域内でも輸入品の約4.7%が偽物であり、その約6割が中国本土および香港経由で流入しています。このような“影の市場”に対抗するためには、多層的な知的財産保護戦略が不可欠です。
その中でも、進出先での特許取得は極めて有効な手段の一つです。特許権を取得することで、現地において模倣品の製造・販売・輸入に対して排他的な権利を行使でき、差止めや損害賠償請求といった実効的な法的措置が可能となります。
また、意匠権や商標権、営業秘密の保護、海関登録制度との組み合わせによって、より強固な防御体制を構築できるでしょう。
実際に、各国の裁判例でもその実効性が裏付けられています。
例えば2024年6月10日、インド・デリー高等裁判所は通信アンテナに関する特許侵害事件で、21.7億ルピー(約40億円)の損害賠償を認容し、差止命令も併せて発令しました。これはインドにおける特許権行使の有効性を示す象徴的な判決です。
一方で、特許を取得していても、それをどの程度効果的に行使できるかは、進出先の法制度や裁判所の運用に左右されるという現実もあります。
例えば2024年7月16日、中国最高人民法院(SPC)は、新制度のもとでの初の特許訴訟に関して判断を示しました。
この事件では、特許を侵害しているとされた企業に対して、一時的に製品の製造や販売を止める「仮処分」が下級裁判所で認められていましたが、SPCはこれを取り消しました。
この判断は、中国の裁判所が特許紛争における仮処分に慎重な姿勢を取っていることを示しています。
こうした点を踏まえると、単に特許を取得するだけでなく、その国の知財保護制度や司法の運用実態を見極めたうえで、戦略的に対策を講じることが重要であると言えます。
逆に、現地で特許を取得していなければ、模倣品の流通に対して輸入差止めや販売禁止を求める法的根拠が存在せず、逸失利益やブランド毀損を防ぐ手立てがありません。
海外特許は単なるコストではなく、模倣品市場での売上・ブランド価値を守る防波堤として機能するのです。
▼ 特許侵害をしない・させないための対策はこちら
参考文献:
- Mapping Global Trade in Fakes 2025 | OECD
- Patents
- China’s Supreme People’s Court Rules in First Patent Preliminary Injunction Case
- Leveraging injunctive relief in pharmaceutical patent disputes in China – IAM
- Patent Infringement
市場での独占的地位の確保
特許を取得すると、その国で最大20年間、同じ技術を他社が製造・販売・輸入することを禁じる排他的な権利が得られます。
この仕組みによって、価格や供給量を自社が主導でき、開発費を回収しながら安定した利益を確保できます。激しい国際競争の中で先行者が有利な立場を築くためには、こうした特許による独占的な地位が欠かせません。
たとえば、イスラエルの製薬会社テバは、多発性硬化症治療薬「コパキソン」に関連する複数の周辺特許を取得することで、後発品の市場参入を数年間遅らせました。
最終的には特許戦略に関して制裁金が科されましたが、それでも特許によって得た時間と収益は、新薬の研究開発にとって大きな価値がありました。
米国の男性機能改善薬「青い錠剤」も、特許が参入障壁として機能した代表的な事例です。
基本特許に加えて追加特許や新用途特許、自社ジェネリックの発売時期の調整などを組み合わせることで、競合の参入を抑え、高い売上を長期間維持しました。
ジェネリックの流通後は急速に市場シェアを落としましたが、それまでに得られた利益は、研究開発や次の事業展開の資金源となりました。
医薬品に限らず、通信モジュールや半導体の分野でも、標準規格に関連する特許を早期に取得した企業は優位に立ちます。
これらの企業は、特許使用料(ロイヤルティ)を他社から得たり、必要な技術の相互提供(クロスライセンス)を通じて、開発コストを抑えながら事業を拡大できるのです。
なので逆に言えば、特許を取らずに海外市場へ出ると、他社の特許に触れて思わぬコストが発生したり、自社の技術を守れずに競争力を失ったりする恐れがあります。
だからこそ、製品の公開や販売に先立って、主要国で特許を取得しておくことが、長期的な成長の土台となるのです。
参考文献:
- Frequently Asked Questions: Patents
- Stiff EU Antitrust Fine for ‘Misuse’ of Patent System Delaying Rival Pharma Entry // Cooley // Global Law Firm
- DrugPatentWatch – Transform Data into Market Domination
- What Are Barriers to Entry for Pharma Companies?
技術ライセンスやM&Aでの有利な交渉
海外特許は、単なる防衛策ではなく、現金化できる資産として交渉の場に持ち込めます。
たとえば、ワイヤレス通信の標準必須特許を握るクアルコム社は、ライセンス部門だけで四半期に約15億ドル、通年では55億ドルを超える収益を上げており、特許料が事業の屋台骨となっています。
買収の局面でも特許は価格を大きく押し上げます。Google 社が124億ドルで Motorola Mobility を買収した際、総額のほぼ半分に当たる55億ドルが17,000件の特許群に割り当てられたことは象徴的です。
また、破綻した Nortel 社の特許オークションでは Apple 社や Microsoft 社が競り合い、特許だけで45億ドルという企業買収級の価格が付けられました。
これらの事例からわかるように、特許によって海外でも独占的な権利を確保しているかどうかで、技術の使用料(ライセンス料)や、企業買収時の評価額(買収プレミアム)に大きな差が生まれます。
海外で権利化していなければ、どれほど優れた技術でも「誰でも使えるアイデア」と見なされ、交渉力は大幅に低下します。
一方、主要市場で特許を先に確保しておけば、ライセンス契約ではロイヤルティという継続的な収入を得られ、資本提携や M&A では評価額を一段と高める交渉カードとなるのです。
研究開発への投資を迅速に回収し、将来の事業機会を拡大するうえでも、海外特許は攻めの経営に欠かせない資産と言えるでしょう。
▼ “作り方”で差をつける製法特許の取り方はこちら
参考文献:
- IP Assignment and Licensing
- Qualcomm Announces Fourth Quarter and Fiscal 2024 Results
- Google: Motorola’s patents worth $5.5B | Fierce Network
企業ブランドの向上と信頼性の確立
特許の取得は、企業が独自の技術力と革新性を備えていることを示す重要な証拠となります。これは単に技術的な優位性を意味するだけでなく、ブランドとしての信頼性や認知度の向上にもつながる要素です。
さらに、知的財産は単なる法的保護の手段にとどまりません。企業のブランドアイデンティティや製品・サービスの品質保証を象徴するものとしても機能します。
実際、Edelmanの調査によれば、消費者の81%が「信頼」を購入の決め手としており、知的財産を活用した一貫したブランディングは、この信頼の構築に大きく貢献すると考えられています。
こうした信頼の蓄積は、消費者だけでなく投資家にとっても極めて重要です。
PitchBookなどの調査によると、特許を保有しているスタートアップは、エンジェルステージで約60〜90%、後期段階でも40〜50%ほど企業評価額が高くなる傾向が見られるとのことです。
つまり、知財の有無は、企業の将来性を見極めるうえで欠かせない判断材料となっているわけです。
なぜかというと特許出願や知財の管理には、高度な技術力だけでなく、戦略的な判断や緻密なドキュメント管理が求められるからです。これらを継続的に実行できる企業は、強固な組織力と実行力を備えたチームを持っていると見なされやすくなります。
そのため、投資家からは将来性のあるパートナーとして評価される可能性が高いでしょう。
このように、知的財産を活用したブランド戦略は、顧客との信頼関係やブランドロイヤルティの構築にとどまらず、投資家との長期的な関係形成にもつながります。そして結果的に、企業価値の持続的な向上を実現する基盤となるのです。
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参考文献:
- How patents boost 409A startup valuations and fundraising
- THE IMPACT OF IP ON BUSINESS BRANDING AND CONSUMER TRUST Tanya Baweja* INTRODUCTION “Make meat great again” When you hear o
- Build Brand Loyalty with the Power of Trademarks
海外特許出願の2つの主要ルート
海外で特許を取得するためには、主に2つの国際的な出願ルートが存在します。それが、パリルートとPCTルートです。それぞれのルートには特徴があり、企業の事業戦略や予算、タイムスケジュールに応じて最適な選択をすることが求められます。
2つの主要ルートについて詳しく見ていきましょう。
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国際特許検索とは|海外展開の失敗を防ぐ生成AI時代の調査戦略
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パリルートとは
パリルートとは、1883年に締結されたパリ条約に基づく「優先権制度」を利用して、海外に特許出願する方法です。
たとえば、あなたが最初に日本で特許出願をしたとします。この日本での出願日を「基礎出願日」と呼びます。そして、そこから12か月以内に、アメリカやドイツ、中国などパリ条約に加盟している他の国へ特許出願すれば、その国での出願日も「日本で出願した日(基礎出願日)」と同じ日として扱ってもらえるのです。
これが「優先権を主張する」ということです。この12か月間は「優先期間」と呼ばれます(※意匠や商標の場合は6か月です)。
この制度の大きな利点は、優先期間内であれば、たとえその技術について学会で発表したり、展示会で製品を公開したりしても、新規性や進歩性の判断は「日本で最初に出願した日」にさかのぼって行われる点です。
つまり、日本で出願したあと12か月の間に海外出願をすれば、そうした技術公開が不利になることはありません。
参考文献:
- Paris Convention for the Protection of Industrial Property
- Summary of the Paris Convention for the Protection of Industrial Property (1883)
■パリルートのメリットとデメリット
パリルートは、最初に出願した国での出願日を基準として、パリ条約に加盟している他国にも優先的に出願できる制度です。これにより、出願人にはいくつかの実務的な利点と注意点が生じます。
最大のメリットは、先ほども挙げた通り最初の出願日(基礎出願日)を起点として、12か月以内(意匠・商標は6か月)に他国に出願すれば、その日が他国でも出願日として認められるという点です。これにより、新規性や進歩性の評価において有利になります。
たとえば、日本で出願した後に製品を展示したとしても、その12か月の優先期間内であれば、後続の海外出願に悪影響を及ぼすことはありません。
また、この制度を使うことで、出願人はどの国に出願するかを一度日本で出願した後に慎重に検討できる猶予を得られます。
そしてさらにあらかじめ出願国が明確な場合には、必要な国だけに出願を絞ることができるため、無駄なコストを削減できるでしょう。
一方で、デメリットもあります。パリルートでは各国への出願がすべて個別対応になるという点です。つまり、出願先の国ごとに書類の翻訳を用意し、それぞれの特許庁の手続き要件や様式に従って出願する必要があります。
また、優先権を主張する際には、基礎出願の写しや翻訳文の提出が求められることもあり、国ごとに異なるルールに対応する負担は小さくありません。
特に、多くの国への出願を検討している場合は、優先期間である12か月という限られた時間の中で、翻訳、現地代理人の選定、費用見積もりなどをすべて完了させる必要があります。
このような時間的・実務的なプレッシャーは、パリルートの大きな制約となり得ます。
参考文献:
- Paris Convention for the Protection of Industrial Property
- Summary of the Paris Convention for the Protection of Industrial Property (1883)
PCTルートとは
PCTルートとは、「特許協力条約」という国際的なルールに基づく出願制度のことです。これを使えば、1つの共通の書類を提出するだけで、多くの国に対して同時に特許を出願したという形にすることができます。
つまり、いちいち国ごとに最初から出願するのではなく、まとめて出願の意思を示すことができる便利な仕組みです。
ただし、各国で特許権を取得するためには、最終的にそれぞれの国において国内移行し、審査を経て個別に特許を付与される必要があります。
参考文献:
- Five ways entrepreneurs can benefit from the PCT
- Time limits for national/regional phase entry of international PCT applications
- PCT – The International Patent System
■PCTルートの国際出願の流れ
PCT出願は、まず国際出願書類をWIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局、あるいは各国の特許庁(日本では日本国特許庁)に提出することから始まります。
その後、国際調査機関による調査が実施され、発明の新規性や進歩性に関する評価結果が出願人に通知されます。加えて、希望する場合には国際予備審査を受けることも可能です。
この段階では、まだ特定の国において特許権が付与されるわけではありませんが、技術的な価値を事前に把握できるという点で重要なプロセスです。
出願から原則として30ヶ月以内(一部の国では異なる場合があります)に、特許取得を希望する各国に翻訳文などの必要書類を提出し、それぞれの国の審査に進みます。
この手続きは「国内移行」と呼ばれ、各国の特許権取得に向けた本格的なステップとなります。
参考文献:
- Five ways entrepreneurs can benefit from the PCT
- Time limits for national/regional phase entry of international PCT applications
- PCT – The International Patent System
■PCTルートのメリットとデメリット
PCTルートの最大の利点は、出願日から最大30ヶ月(国によっては31ヶ月以上)まで、どの国で特許を取得するかを猶予できる点です。
たとえば日本で先に出願した場合、その出願日を「優先日」として扱い、30ヶ月以内であれば米国・欧州・中国などに後から出願しても、最初の出願日を維持できます。
この期間中に、対象市場の反応を見たり、出願費用を調達したり、競合調査を行う余裕が生まれます。
また、PCT出願は1つの出願書で150か国以上に対して一括出願したのと同じ効果が得られ、国ごとに個別の出願準備をする必要がありません。
たとえば日本語でPCT出願すれば、WIPOが調査を行い、その結果(国際調査報告書)を受け取った上で、特許の可能性が高い国だけを選んで移行できます。
これにより、出願の優先順位を戦略的に決め、不要な国への出願を避けてコストを抑えることが可能になります。
ただし、PCT出願には国際出願段階での手数料がかかり、また後に各国へ移行する際には、それぞれの翻訳費用・現地代理人費用・審査費用などが別途発生します。
また、PCTはあくまで「各国への出願手続きを繰り延べる仕組み」であり、「国際特許」が取れるわけではありません。結局は各国での審査を受け、それぞれで特許を取得する必要があります。
さらに、各国への移行期限(通常30または31ヶ月)を過ぎると、その国では出願できなくなるため、期限管理が極めて重要です。たとえば中国は原則30ヶ月、シンガポールは延長申請により最大48ヶ月まで猶予が可能ですが、追加手続きや費用が発生します。
期限を過ぎた場合でも、例外的に「正当な理由がある場合のみ」回復措置が認められる国もありますが、要件は厳しくリスクが高いといえます。
参考文献:
- Five ways entrepreneurs can benefit from the PCT
- Time limits for national/regional phase entry of international PCT applications
- PCT – The International Patent System
海外特許出願にかかる費用と相場
海外特許出願は、国内出願に比べて費用が高額になる傾向があります。その理由は、複数の国での手続きが必要となることや、言語の壁、現地の代理人費用などが加わるためです。
費用構造を理解し、適切に予算を計画することは、海外特許戦略を成功させる上で欠かせません。
費用を左右する主な要因
海外で特許を取得するには、国内出願とは異なる複雑な費用構造があります。特に以下の5つの要因が、総コストに大きな影響を及ぼす要素です。
まず、出願する国や地域の数が増えるほど、各国の特許庁に支払う出願料・年金・登録費用などが累積します。
たとえば欧州特許庁(EPO)では、出願時に一律の指定料(現在660ユーロ)を支払いますが、特許が付与された後には、各国で権利を有効化するための「バリデーション費用」が発生します。
これには現地語への翻訳費用や、各国の官庁手数料が含まれ、国の数が多いほど大きな負担となるでしょう。
次に、出願ルートの選択によって費用の発生時期とその内訳が変わります。パリルートでは早期に各国へ個別出願するため、初期費用が高額になります。
ですが、PCTルートを選べば出願から各国移行まで最大30か月の猶予があり、その間に対象国の選定や投資判断が可能です。ただし、後半にまとめて多額の費用が発生する点には留意が必要です。
また、現地代理人への依頼費用も大きな要素となります。出願書類の作成や提出、審査段階での補正や意見書対応などは、各国の実務に精通した代理人に依頼するのが一般的です。
これらの対応が複雑で長期化するほど、代理人費用は総額の中で大きな比重を占めることになります。
さらに、翻訳費用も無視できません。明細書やクレームを複数の言語に翻訳する必要があり、特許文書の長さや専門性、翻訳対象の言語数によって大きく費用が変動します。
たとえば中国語や欧州各国語への翻訳が必要な場合、翻訳費用は出願全体の中でも大きな割合を占めることがあります。
最後に、各国の特許庁が課す官庁費用と追加手数料があります。
基本的な出願料・審査請求料のほか、クレーム数やページ数の超過による追加料、さらには審査対応での期間延長や継続審査請求(RCE)といった手続きに応じて、さまざまな追加費用が発生します。
これらの要素を事前に把握し、信頼できる各国代理人から詳細な見積書を取得することで、無駄のない戦略的な海外出願が可能です。
特許出願の成功には、技術内容だけでなく、費用設計も重要な戦略要素となります。
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参考文献:
- US Patents fee
- European patent application timeline with expected costs — Fillun
- China National Intellectual Property Administration Fees
主要国・地域での費用の目安
特許出願から権利取得までにかかるコストは、国や地域によって大きく異なるものの、いくつかの典型的なケースからおおよその目安をつかむことができます。
まず米国の場合、基本的な出願料、サーチ料、審査請求料、発行料を合計すると約3,020ドル(約44万円)にのぼります。
ここに、独立クレーム数の超過や明細書ページ数の超過に伴う追加料金、オフィスアクション対応の延長料、さらには継続審査請求(RCE)の申請料などが上乗せされます。弁理士への代理報酬や英訳費用も加えると、通常は100万円から300万円以上が必要となるのが一般的です。
これに対し欧州特許庁(EPO)を経由した場合、出願から付与までにかかる公式手数料はおよそ6,000ユーロ(約101万円)です。
しかし、登録後に特許権を実際に有効化したい各国では、その国の公用語への翻訳費用や国内特許庁への手数料を個別に支払う必要があり、移行先の国数が増えるほどコストがかさんでいきます。
主要な数か国へのバリデーションや年金(更新料)を含めると、合計で200万円から400万円以上を見込むケースが多くなります。
中国のCNIPAにおける出願では、発明特許の基本出願料900人民元と実体審査料2,500人民元を合わせて約3,400人民元(約6.1万円)がまず必要です。
ここにクレーム超過料や明細書の翻訳修正料、申請期限延長料などが加わり、さらに現地代理人の報酬を考慮すると、総額で50万円から200万円程度が相場となります。
いずれの地域においても、技術の複雑度や審査に伴うやりとりの回数、追加クレームの有無、代理報酬などによって費用は上下します。
加えて、権利取得後には3年目以降に毎年発生する年金(維持費)を長期的に支払っていく必要があるため、出願戦略を立てる際にはこの点も含めた総合的なコスト計画が欠かせません。
参考文献:
- US Patents fee
- European patent application timeline with expected costs — Fillun
- China National Intellectual Property Administration Fees
成功に導く海外特許戦略のポイント
海外特許の取得は、単に手続きを進めるだけでなく、事業戦略と密接に連携した多角的なアプローチが求められます。ここでは、海外特許戦略を成功に導くための重要なポイントをいくつか紹介します。
出願国・地域の選定と優先順位付け
限られた予算とリソースを最大限に活用するには、まず出願先の国・地域を戦略的に絞り込むことが不可欠です。
2023年の世界特許出願件数の47.2%を中国、16.8%を米国、8.4%を日本が占めていることから、これらの市場は最優先で検討すべき対象といえるでしょう。
また、韓国などGDPや人口あたりの居住者出願数が高い国は、将来的な技術受容性や成長ポテンシャルを示す重要な指標となります。
競合他社の特許活動が集中する国を押さえることで、模倣品リスクの高い市場を事前に特定することが可能です。たとえば、デジタル通信やコンピュータ技術で世界をリードする中国や米国では、主要企業の出願動向を定期的にモニタリングし、出願タイミングやクレーム範囲の差別化を図る工夫が求められます。
さらに、自社の研究開発拠点や技術サプライヤーが所在する国も保護対象に含めておくことが望ましいです。居住者出願数の多い中国、米国、日本、韓国は、こうした拠点としての役割が大きいことが明確に示されています。
そのうえで、各国の審査期間や費用構造を比較し、コストパフォーマンスの高い出願先を選定することも重要です。
米国特許商標庁(USPTO)の料金表には、マイクロ事業体ステータスを活用することで最大80%の割引が受けられる制度が設けられており、事前評価によっては費用を大幅に抑えることができます。
一方、PCTルートの活用により、出願時点で複数市場への足掛かりを得ると同時に、国別移行のタイミングを先延ばしすることも可能です。これにより、資金調達や市場調査の猶予が得られるという利点があります。
これらの観点を総合的に検討し、短期的なビジネス需要だけでなく、中長期的な事業展開計画を見据えた優先順位を付けることで、無駄な投資を避け、効果的かつ持続可能な海外特許戦略を構築することができるでしょう。
参考文献:
- USPTO fee schedule
- World Intellectual Property Indicators 2024: Highlights – Patents Highlights
- Summary results of the OECD survey on patenting and licensing activities
- World Intellectual Property Indicators 2024
専門家との効果的な連携
海外特許出願は、制度の複雑さ、費用構造、言語要件、期限管理など、複数の要素が絡む高度な対応が求められるため、企業が単独で対応するには限界があります。そのため各国の制度に詳しい弁理士との連携は、費用の最適化や権利取得の成功率を高めるうえで不可欠です。
たとえば、米国特許商標庁(USPTO)にユーティリティ特許を出願する場合、2025年1月19日から適用される新料金表によると、出願基本料が350ドル、調査手数料が770ドル、審査手数料が880ドルに設定されています。
さらに、非電子出願を選択した場合には、事業体の規模に応じて追加料金が発生し、一般事業体では400ドル、小規模事業体および極小規模事業体では200ドルが課されます。このように、手続きの形式や記載ミスがそのままコスト増につながるため、適切な選択と慎重な管理が必要です。
請求項の数に応じた課金制度も厳格で、20件を超える請求項には1件ごとに200ドル、多項従属請求項には925ドルの追加費用がかかります。これは、出願時点での技術の表現方法がそのまま費用に影響することを意味し、クレーム設計段階から戦略的判断が求められるということです。
PCTルートを利用する場合は、「国際段階」と「国内段階」で異なる手数料が設定されています。たとえば、電子出願で30ページ以内の場合、国際出願手数料は1,237ドル、国際調査手数料は2,400ドル、予備審査手数料は705ドルまたは880ドルとされています。
また翻訳対応も重要な要素です。各国の国内段階に移行する際には、現地語への翻訳が求められ、翻訳の正確性と期限管理が重要になります。
たとえば米国では、優先日から30か月を超えて英語翻訳文を提出した場合、事業体の規模に応じて、150ドル(一般事業体)、60ドル(小規模事業体)、または30ドル(極小規模事業体)の追加手数料が課されます。
このように、海外特許出願では単なる手数料の支払いだけでなく、制度設計、翻訳管理、提出期限、クレーム構成、費用配分といった多くの要素が複雑に関係しており、包括的なマネジメントが不可欠です。
弁理士と連携することで、出願国の優先順位づけ、翻訳スケジュールの管理、クレームの最適化、段階ごとの費用見通しなどを的確に行うことができ、制度的リスクを避けつつ、戦略的な出願が可能となります。
参考文献:
- USPTO fee schedule
- World Intellectual Property Indicators 2024: Highlights – Patents Highlights
- Summary results of the OECD survey on patenting and licensing activities
- World Intellectual Property Indicators 2024
権利取得後の維持管理と活用
海外で特許を取得しても、それで終わりではありません。特許権を維持するには、定期的な維持費用(年金)の支払いが必要です。
たとえば米国では、所定の時期に「メンテナンスフィー」を支払わなければ、特許は失効します。
こうした制度は国際的にも共通しており、期限内の支払いが特許維持の前提条件とされています。そのため、特許権の有効性を保つためには、厳格な期限管理が不可欠です。
また、特許は「取得すること」自体が目的ではなく、その活用によって真価が問われます。たとえば、模倣品の排除を目的に法的措置を講じたり、他社にライセンスを供与して使用料収入を得たりすることが可能です。
実際、OECDの調査でも、ライセンス供与が企業の収益源となっていることが示されています。
さらに、知的財産はマーケティングの観点でも一定の役割を果たします。たとえば「スイス製の時計」や「スコッチウイスキー」といった地理的表示(GI)は、その品質や由来を保証することで消費者の信頼を得ています。
このように、維持費の管理に加え、特許の収益化や戦略的活用を行うことで、特許権は企業の成長を支える重要な資産となるのです。
参考文献:
- USPTO fee schedule
- World Intellectual Property Indicators 2024: Highlights – Patents Highlights
- Summary results of the OECD survey on patenting and licensing activities
- World Intellectual Property Indicators 2024
海外特許取得の注意点
海外特許の取得は企業にとって大きなメリットをもたらす一方で、いくつかの注意点も存在します。
これらを事前に理解しておくことで、予期せぬトラブルや無駄なコストを回避し、よりスムーズな出願プロセスを実現できるでしょう。
費用の問題
海外特許出願において、最も注意すべき点の一つが費用の高さです。
国内出願に比べて、海外では現地代理人費用や明細書等の翻訳費用が必要となるため、出願国が増えるごとにその負担は大きくなります。
たとえば、米国への移行手続きでは、翻訳費用・代理人費用・事務所手数料などを含めて70〜100万円程度がかかり、さらに拒絶理由通知(オフィスアクション)への対応費用などを含めると、登録までに200万円近くを要するケースも報告されています。
これらの費用は、PCTルートを活用しても必ずしも安価になるわけではありません。むしろ、国際調査報告(ISR)などの追加手数料が発生するため、パリルートよりも高額になる可能性すらあるとされています。
また、PCTとパリルートを併用した場合には、一部手続きが重複し、費用の二重払いが発生することもあるため注意が必要です。
したがって、海外出願を検討する際には、自社のビジネス展開や将来性を見極め、本当に必要な国に限定して出願するという戦略的な判断が求められます。
資金計画が甘いまま多国出願を行うと、途中で費用負担が継続できなくなり、結果的に権利を放棄せざるを得ないリスクもあるため、出願前の段階から費用構造の把握と見積もり取得を徹底しておくことが望まれます。
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参考文献:
手続きの複雑さと長期化
海外で特許を取得するには、各国で異なる制度や言語、形式要件に対応する必要があり、国内出願と比べて手続きははるかに複雑です。
たとえば中国では、すべての提出書類に中国語訳が義務づけられており、不備や提出遅延があると、書類が無効とみなされることがあります。
また、国際出願から国内段階へ移行する際には、補正内容を含めた正確な翻訳文の提出が求められ、提出がない場合は補正が反映されません。
こうした手続きを進めるには、現地の特許代理人との連携が欠かせません。中国では、代理人を通じて文書の提出や庁とのやり取りを行う必要があり、正式な委任状の提出も求められます。
これは、出願人自身では完結しない制度設計であり、専門家の関与が前提となっていることを意味します。
さらに、審査期間も国によって大きく異なり、出願から特許付与までに数年を要することも珍しくありません。
米国では、最初の庁指令までに平均16か月、特許付与までに平均24か月以上かかるとされ、継続審査(RCE)によってさらに長引く場合もあります。
各国の制度には、書類の記載方式、生物材料の寄託、費用の支払い方法など、詳細かつ厳格なルールが存在しており、これらに対応するための情報収集と準備も重要です。
したがって、海外出願を成功させるには、対象国ごとの制度とタイムラインを正確に把握し、翻訳、代理人連携、費用、審査戦略を含めた総合的な出願計画を早期に立てることが不可欠です。
余裕を持ったスケジュール設計が、円滑な権利取得につながります。
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参考文献:
- Rules for the Implementation of the Patent Law of the People’s Republic of China
- Patents Dashboard | USPTO
各国特有の法制度や商慣習への理解
海外で特許を取得・維持する際には、単なる登録手続きにとどまらず、取得後の運用段階で初めて浮かび上がる各国の制度や商慣習の違いを正しく理解しておくことが極めて重要です。
特に注視すべきなのが、特許発明を現地で実際に活用することを求める「実施要件」です。
たとえばインドやブラジルでは、特許付与後3年以内に国内での実施がなされていない場合、第三者による強制ライセンス請求の対象になる可能性があります。
つまり、現地での製造やライセンス体制の整備を怠ると、取得した特許が実質的に機能しなくなるリスクが生じるのです。
インドではこれに加えて、毎年の実施報告書の提出が義務づけられており、これを怠った場合には罰金が科される可能性があるほか、場合によっては特許が取り消されることもあります。
そのため、現地法人や委託先と連携した報告体制の確立は不可欠です。
特許侵害が発生した場合の救済制度も国によって異なります。アメリカでは、裁判所が認定した損害額に対し、状況に応じて最大3倍まで増額できる制度が設けられています。
損害賠償の増額が認められるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており、法制度上そのような加重措置が可能である点が他国と大きく異なるのです。
これは、特にブランドや技術資産に対して積極的に保護を図ろうとする企業にとっては、有力な選択肢となり得る反面、訴訟戦略上の慎重な対応が求められます。
このように、特許制度は各国で細部が大きく異なっており、特許を「どの国で、どのように活用し、万が一侵害された場合にどう対処するか」といった運用方針によって、同じ発明であっても得られる保護の範囲やその経済的価値は大きく変動します。
したがって、海外での特許取得を検討する際には、国ごとの制度的背景と実務リスクを慎重に見極めることが肝要です。
参考文献:
- Working on It: An Overview of Patent Working Requirements, Part 2 | Osha Bergman Watanabe & Burton | Intellectual Property Lawyers
- China: Highest Court upholds punitive damages of up to five times the illegal gains in ip infringement claims | DLA Piper
- 35 U.S. Code § 284 – Damages
機密保持の徹底
特許出願前には、発明内容が第三者に漏洩しないよう、情報管理を徹底することが重要です。
とりわけ、共同開発や業務提携などで外部と技術情報を共有する場合には、機密保持契約(NDA)をあらかじめ締結しておくことが、リスク管理の基本とされています。
営業秘密として法的保護を受けるためには、「秘密として管理されていること」が要件とされており、NDAはこの管理の合理性を示す有力な証拠です。
国際的にも、WIPOやTRIPS協定はNDAを含む契約による保護を、正当な秘密管理措置の一例として明確に位置づけています。
また、日本企業の実務や関連報告書でも、秘密情報の取り扱いにおいて契約による保護が広く行われており、発明が公知化して特許取得が困難になることを避ける手段として、NDAの締結が強く推奨されています。
特に注意すべきは海外企業との連携です。JETROの報告によると、日本企業が海外に製造拠点を持つ場合、現地の取引先企業や労働者を通じて情報漏洩が発生するリスクが高まる傾向にあります。
これは、文化や商慣習、契約遵守意識の違いによって、機密情報の取り扱いに対する認識が日本とは異なるためです。
さらに、海外企業との取引では、契約違反が発生しても日本の裁判所の判決が現地で執行されない場合があるなど、法的手続きの限界が指摘されています。
このため、準拠法や仲裁合意を明記するだけでなく、契約内容に現地監査の実施条項を盛り込むなど、実効性の高い運用体制を整えることが求められます。
加えて、NDAの締結だけでなく、従業員教育、アクセス制限、ITセキュリティ、物理的管理措置といった多層的な管理を組み合わせることで、より強固な秘密保持体制を構築できます。
コア技術の製造工程を国内に限定するなど、構造的に情報を閉じる工夫も有効な対策です。
このように、NDAの活用と実効的な管理体制は、特許取得を確実に進めるための準備であると同時に、企業の知的財産を中長期的に守るための戦略でもあります。
参考文献:
- Trade Secrets
- 海外事業展開における秘密漏えい防止のための対策
- DEFEND TRADE SECRETS ACT OF 2016
- WIPO Guide to Trade Secrets and Innovation – Part III: Basics of trade secret protection
まとめ
海外特許は、模倣品対策や市場での優位性確保、技術ライセンスによる収益化など、グローバル展開を目指す企業にとって大きなメリットをもたらします。
ただし、取得には属地主義の理解、出願ルート(パリルート・PCTルート)の選択、高額な費用や複雑な手続きへの対応が不可欠です。
本記事では、海外特許の基本概念から出願方法、費用、成功のための戦略までを解説しました。適切な出願国の選定、専門家との連携、そして取得後の維持・活用を通じて、貴社の技術が世界で競争力を持つことを願っています。
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引用元:株式会社エムニ