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2025-05-30特許調査とは|効率的な進め方を徹底解説

特許調査は、技術開発や知財戦略の根幹を支える重要なプロセスで、あらゆるビジネスシーンで活用されています。しかし、具体的な調査の種類や進め方がわからず、不安を感じる方も少なくありません。
本記事では、特許調査の基本的な考え方から目的別のアプローチ、実務上の課題、そして効率化のためのテクニックまで、実例も交えつつ体系的に解説していきます。
特許調査とは
特許調査とは、ある技術や発明に関する特許文献を検索・分析し、既に権利化された内容や出願傾向を把握する行為のことです。
技術開発の初期段階や新商品開発の意思決定において、他者の特許を侵害していないか、または技術的に新規性があるかを判断するために実施されます。
企業活動における知的財産の重要性が高まる中で、特許調査は単なるリスク回避策ではなく、競争優位を築くための積極的な情報収集手段としても活用されているのです。
特許調査を行う4つの目的
特許調査の主な目的は、以下のように4つに大別されます。それぞれで調査の内容やアプローチは異なります。
目的 | タイミング | 調査の種類 |
出願拒絶リスクの低減 | 特許出願前 | 先行技術調査 |
他社権利を回避した製品開発 | 製品設計・開発の初期段階 | クリアランス調査 |
技術動向を踏まえた研究テーマの決定 | 研究開発の指針設定時 | 技術動向調査、競合調査 |
知財デューデリジェンス | 投資・M&A の検討段階 | 権利状態調査など複数 |
まず出願拒絶リスクの低減とは、新しい発明を特許出願する際に、すでに類似する技術が公開・出願されていないかを事前に確認することです。
これを目的として行われる特許調査は「先行技術調査」と呼ばれ、特許庁に出願した後の拒絶通知を未然に防ぐために欠かせません。
出願前に十分な調査を行っておくことで発明の新規性や進歩性を裏付けやすくなり、審査がスムーズに進む可能性が高まります。
また製品開発においても、他者権利を回避した開発の推進のために特許調査が必要となります。これは「クリアランス調査(侵害予防調査)」といいます。
仮に商品開発の終盤で他社特許への抵触が判明すると、設計のやり直しや販売中止に追い込まれるという大きなリスクがあります。
これを防ぐために、製品構成や実装仕様が固まる前に特許調査を行い、必要であれば設計上の回避策を講じることで、市場投入までのスピードと安全性を両立するものです。
さらに技術動向を踏まえた研究テーマの設定段階にも特許調査は関わってきます。
たとえば現在どのような技術が注目されているのか(技術動向調査)、どの企業がどの分野に注力しているのか(競合調査)を把握することで、自社が今後取り組むべき技術領域の選定や、研究リソースの配分を判断する材料が得られます。
これらは企業が中長期的な技術戦略を立てる際にも行われます。
また加えて、知財デューデリジェンス(知財DD)という特許調査もあります。
これは主に投資やM&Aの検討段階において、対象企業が保有する特許資産の価値やリスクを多角的に評価するための調査をいいます。
調査項目は、特許の有効性、他社からの被引用状況、グローバルでの権利取得状況(パテントファミリー構成)、過去の係争歴など多岐にわたり、必要に応じてさまざまな手法の調査を行います。
ここで得られた情報をもとに対象企業の技術的競争力や法的リスクを精査し、投資判断や契約条件の見極めを行います。
さまざまな特許調査
特許調査は、その目的に応じてさまざまな種類があります。たとえば先行技術調査は出願拒絶を防ぐことを目的に、同様の技術が既に出願・公開されていないかを確認する調査でした。
特許調査はこのように特許そのものの内容を調べるものだけでなく、その周辺情報まで対象とする調査も数多く存在します。
無効資料調査はそのひとつで、他社が保有する特許の有効性に疑問がある場合、その特許を無効化する根拠を探すための調査です。
特許異議申立てや無効審判、あるいは訴訟の場面で、「その特許は過去の技術と変わらない」「すでに公知である」といった主張を裏付ける先行技術を発見することを目的としています。
たとえば自社製品が他社の特許に抵触していると警告された場合、その特許を調査して無効資料が見つかれば、交渉や訴訟において有利な立場を築ける可能性があります。
製造業においては、競合との技術紛争を回避し、製品の市場投入を継続するための重要な戦略手段の一つとなります。
パテントマップ分析(特許マップ調査)は大量の特許情報を可視化・分析する手法で、特定技術の出願動向や競合企業の技術強化領域、特許の集中分布などを俯瞰的に捉えるものです。
出願件数や被引用回数などの情報を、マトリクス分析をはじめとする様々な手法で整理・可視化し、分析することで、企業の技術戦略や研究投資の方向性が読み取れるようになります。
たとえば、工作機械のセンサ制御技術に関する特許マップを作成することで、どの技術領域に競合が集中しているかを把握し、自社の開発分野を戦略的に差別化する判断材料とすることが可能です。
特許調査おける課題とその対処法
特許調査には多くのメリットがある一方で、実務上の課題も少なくありません。ここでは、実際に調査を行う際によく直面する問題点と、その対処法を紹介します。
調べたい情報がうまく見つからない
特許文献の検索では、使用するキーワードの選定が結果を大きく左右します。検索語句が広すぎると関係のない特許が大量にヒットし、逆に狭すぎると重要な情報を見落としてしまいます。
そのため、的確な検索式を設計するには、調査対象となる技術への理解と、検索ツールを使いこなす経験の両方が求められます。
たとえば、新たな混合材料に関する特許を調べる際はどうでしょうか。
「複合材料」や「コンポジット」などの言葉をそのまま使うだけでは、意図しない分野──建築用の複合素材や医療用途の高分子材料など──まで検索結果に含まれてしまい、ノイズが多くなってしまいます。
このような場面では、まず自社の技術がどのような構造や機能を持っているのかを整理し、それに即した専門用語(たとえば「炭素繊維強化プラスチック」や「界面接着性」など)をキーワードに取り入れることが重要です。
同時に、複数の条件を組み合わせる「AND(○○かつ△△)」、特定の語句を除外する「NOT(○○を含まない)」、複数の言い回しを網羅する「OR(○○または△△)」といった検索演算子を活用したり、検索対象のフィールド(発明の名称、要約、請求の範囲など)を適切に指定したりすることで、検索精度を向上させることができます。
またツールの機能を熟知していれば、キーワードと分類コードの併用や、過去の検索式を保存して改善していくといった応用も可能です。
こうした「技術の理解」と「検索ツールの活用」の両軸があって初めて、有効な検索結果にたどりつくことができるのです。
専門用語や分類コードがわかりにくい
特許調査では、検索の精度を高めるために、特許庁が定めた分類コード(IPC、FI、F-タームなど)を用いることがあります。
これらは技術分野ごとに特許を体系的に整理するための指標で、キーワードだけでは拾いきれない特許文献を網羅的に調べる際に非常に有効です。
たとえば、FI(File Index)は日本独自の詳細分類であり、F-タームは機能や構造、製造方法などの観点で分類された索引情報です。「金属の表面処理技術」などのように広い範囲を扱う場合、分類コードを使いこなせるかどうかで調査の網羅性が大きく変わります。
とはいえ、それぞれの分類コードには独特のルールや定義があり、不慣れだとハードルが高く感じられるのが実情です。特許庁の公開資料やデータベースの操作画面も、専門的で直感的とは言いづらく、慣れるまでは思うように調査を進められないこともあります。
こうした課題に対しては、まずJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)などの公的なデータベースで、調べたい技術に近い既存特許の分類コードを参照する方法が有効です。
自分でコードをいちから探そうとするのではなく、例えば、関心のある既知の特許にどのような分類コードが付与されているかを確認し、それを手がかりに同様の技術を探すアプローチを取ることで、実務的な理解を深めやすくなります。
また、特許事務所や外部調査会社に一部を委託しながら、社内にノウハウを蓄積していく方法も選択肢のひとつです。
海外の特許が調べにくい
特許調査は国内だけでなく、海外の特許情報も対象とする必要があります。
特にグローバル展開を視野に入れた製品開発では、主要市場である米国、欧州、中国などの特許調査が不可欠です。
しかし、外国語の特許文献を読むには言語の壁があり、翻訳の質も課題となります。
自動翻訳ツールを用いたとしても、技術的なニュアンスの把握が不十分であったり、特に権利範囲の解釈において誤認が生じたりするリスクが残ります。
権利範囲のように法的な判断が伴う重要な部分については、機械翻訳はあくまで参考とし、必要に応じて特許翻訳の専門家や現地の特許代理人に確認することが不可欠です。
こうした状況では、まずGoogle PatentsやEspacenetなど、主要な国際特許データベースで英語による機械翻訳付き文献を参照することが第一歩となります。
さらに、調査対象が重要な製品やコア技術に関わる場合には、専門の翻訳会社や外国代理人と連携して精度の高い調査を行う体制を整えることが望ましいでしょう。
調査できる人が限られている
特許調査は、技術的知識と知財制度に関する理解の両方が必要な高度な業務であるため、社内で対応できる人材が限られているケースが少なくありません。
特に中小企業では知財部門が十分に整備されておらず、開発担当者が調査を兼任することもあります。
このような体制では、調査の精度や網羅性にばらつきが生じやすく、調査漏れや判断ミスが製品開発や経営判断に影響を与える可能性もあります。
そのため、社内だけで調査体制を完結させるのではなく、必要に応じて外部の支援を活用することも選択肢となります。
たとえば、検索の初期段階にAIを活用したツールを導入することで、限られたリソースでも一定水準の調査精度を確保しやすくなります。
専門人材の不足を補いながら、調査の属人化や手戻りのリスクを低減するうえでも、こうした外部リソースの組み合わせは有効です。
効率的な特許調査の進め方
これらの課題をクリアしたうえで、より効率的に特許調査を進めるための具体的な手順を紹介します。
調査の目的と対象を明確に
調査を始める前に、「なぜ調べるのか(目的)」「何を調べたいのか(対象)」を明確にしておくことが重要です。
たとえば、製品化前のリスク評価であればクリアランス調査、研究戦略の立案であれば技術動向調査など、目的によって調査方法が大きく変わります。
さらに、対象とする技術領域や調査対象期間、調査対象国などの条件をあらかじめ定義しておくことで、不要な文献の検索や読み込みといったムダを減らし、短時間で本質的な情報にたどり着きやすくなります。
調査計画を立てる
特許検索を思いつきで始めてしまうと、調査範囲がブレたり、検索漏れや重複確認が発生したりと、かえって非効率になることがあります。
そのため、事前に「どの情報源を使うか」「どの分類コードを用いるか」「どの順番で検索するか」といった調査の流れを計画しておくことが大切です。
たとえば、先にキーワード検索で大枠を掴み、次に分類コードで網羅性を高め、最後に引用情報で周辺技術を洗い出すといった手順を定めることで、作業の無駄を省き、抜け漏れのない調査が可能になります。
検索式を設計する
検索の質を左右する最大の要因のひとつが、検索式の設計です。
ただ思いついたキーワードを入力するだけでは、重要な特許が埋もれてしまったり、無関係な文献が大量にヒットしたりするおそれがあります。
まずポイントとして挙げられるのが、IPC/FI/F-タームといった分類コードの活用です。
特許文献は技術分野ごとに分類コードによって整理されています。これを検索式に組み込むことで、キーワード検索だけでは拾いきれない文献を網羅的にカバーすることができます。
IPC(国際特許分類)は世界共通の基本分類で、広い技術領域をカバーしています。一方、FIとF-タームは日本特許庁が独自に定めた分類で、日本国内の特許調査において特に有効です。
FIは構造や機能の違いを細かく区別でき、F-タームは用途・課題・処理プロセスといった観点から検索軸を拡張できます。
例として、「放熱性に優れた回路基板」のように表現の揺れが大きい技術では、キーワード検索では漏れが発生しやすくなりますが、FIやF-タームを併用することで、必要な技術群を安定して拾い上げることができます。
もうひとつのポイントが、引用・被引用情報をたどることです。
ある特許が引用している過去の文献や、逆にその特許を引用している後発の文献を調べることで、関係性の深い技術や競合の関連出願を効率よく発見できます。
この引用・被引用情報を活用する手法は、関連性の高い特許を効率的に掘り下げることから(一部で「芋づる式調査」と呼ばれることもあります)、調査範囲を的確に広げつつ、無関係な情報の混入を防ぎやすいのが利点です。
たとえば、自社が注目している技術分野において、ある競合企業の特許Xが別の特許Y・Zを引用している場合、それらの文献をあわせて確認することで、技術の系譜や進化の流れ、さらには企業の研究戦略までを把握する手がかりとなります。
被引用回数が多い特許は、注目度や関連性が高い可能性があり、調査対象として優先的に検討すべき場合があります。ただし、引用の背景(無効化のためか、技術参照か)に注意が必要です。
検索結果を活用する
調査の成果を一過性のものにせず、継続的なナレッジとして蓄積・活用していくことも大切です。
検索結果をツールを用いて記録しチーム内で共有することで、次回の調査や新規プロジェクトでも再利用できます。
あるいは検索条件を保存しておけば、定期的なアップデートやアラート通知も可能になります。
Derwent Innovation や Orbit Intelligence などの商用特許調査プラットフォームでは、特定の検索式に一致する新規公開特許が出た際に、自動で通知を受け取るアラート機能が利用できます。
ただし、これらの機能はすべてのツールで使えるわけではなく、無料のJ-PlatPatなどでは手動でのチェックが必要になる場面もあります。目的や予算に応じてツールを使い分けることが肝要です。
AIの活用
近年では、AIを活用した検索支援ツールが数多く登場しており、特許調査の効率と精度を大きく高める手段として近年注目されています。
たとえば自然言語処理技術を活用したAI系SaaSでは、入力した技術文(研究レポートや発明メモなど)から自動的に関連性の高い特許を抽出できる機能が備わっています。
これは初期段階の情報選別に非常に有効です。またキーワードの網羅漏れをAIが補完してくれるため、調査経験の浅い担当者でも一定以上の精度を担保できます。
さらに、業界ごとの専門用語や製品構成に最適化されたAIモデルを社内で独自に構築すれば、調査の再現性と網羅性をさらに高めることも可能です。
属人的になりがちな調査業務を平準化し、リスクを軽減する意味でも有効です。
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まとめ
特許調査は、単なるリスク回避の手段にとどまりません。開発の方向性を定め、事業の未来を見通すための「戦略的な情報収集」として、あらゆる場面でその価値を発揮します。
一方で、その実務には多くの専門知識と技術的判断が求められ、調査範囲の設定や検索式の設計、分類コードの理解など、ひとつひとつの作業に高い精度が求められます。
だからこそ、調査計画の明確化、ナレッジの蓄積と共有といった工夫が調査の質を大きく左右します。属人的な作業から脱却し、再現性とスピードを両立させることで、調査は組織全体の競争力へとつながっていきます。
自社の技術と知財を守り、育て、次の打ち手につなげる。その起点にあるのが、精度の高い特許調査です。今一度、自社に最適な調査体制を問いなおすことから始めてみてはいかがでしょうか。
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引用元:株式会社エムニ