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事業活動の中で新しい製品やサービスを開発するとき、避けて通れないのが特許という知的財産権です。
特許侵害は企業の競争力を根底から揺るがしかねない重大リスクであり、自社が侵害しないためにも、被害を受けた場合にも、適切な知識と対処が欠かせません。
本記事では、特許侵害の成立要件から判定フロー、予防策、紛争解決手続き、判例までを解説し、具体的かつ実務的な視点を提供します。
特許侵害とは
特許侵害とは特許法によって定められた権利を侵害する行為です。
特許権は「特許出願から20年の存続期間内において、業として、特許発明を独占的に実施することのできる権利」と定められており、研究開発への投資を促し、社会全体の技術進歩を支えています。
侵害が起きると、差止請求や損害賠償請求など厳格な制裁が科されるため、企業は自社が侵害していないか、また自社特許が侵害されていないかを常に注意深く確認する必要があります。
以下では「実施行為」、「業として」、「技術的範囲」の3つの要素に分けて説明します。
実施行為
特許法に定められた「実施」とは、物の生産・使用・譲渡など発明を具体的に利用する一切の行為を指します。
例えば特許発明に該当する機械部品を組み込んだ製品を製造する行為、あるいはその製品を日本国内で使用する行為が実施です。輸入や賃貸も含まれるため、海外生産品の国内販売でも侵害が成立し得ます。
またソフトウェア関連発明では、クラウド提供型サービスの実装方法が「使用」に該当するかが論点となる場面が多いです。
実施範囲を誤認すると想定外の侵害リスクを抱えるので、製造拠点、流通ルート、提供形態に応じて具体的に検討することが重要となります。
業としての実施
営利・非営利を問わず事業目的で反復継続的に行う場合、「業としての実施」と評価されます。
典型例は製品を大量生産し市場で販売する行為ですが、単発の受託製造や小規模なオンラインショップでの販売も、業としての実施とみなされる場合が多いので注意が必要です。
一方で完全に私的・家庭内での利用にとどまる場合は侵害要件から外れます。
技術的範囲
技術的範囲は、特許請求の範囲(クレーム)に記載された構成要件を満たすかどうかで決まります。
クレーム解釈では、明細書や図面、さらには当業者の技術常識を手掛かりに、用語の意味や要件の相互関係を読み解きます。請求項が定義する技術思想を直接充足しなくても、本質的な部分が同じであれば「均等論」により侵害が認められる場合があるため、単純な文字対比で判断しないことが肝要です。
均等論に関しては重要な考え方であるため、以下の見出しで判例を交えて詳しく説明します。
特に新旧技術が交錯する分野では、「AI」や「IoT」などの新概念がクレーム記載とどのように対応するかを慎重に検討しなければなりません。
特許侵害の3つの類型
侵害行為は大きく直接侵害、均等侵害、間接侵害の三類型に分類されます。それぞれ成立要件や立証方法が異なるため、注意が必要です。
直接侵害
直接侵害は特許権侵害の最も原則的な形態です。請求範囲に記載された全構成要件を充足する場合、直接侵害が成立します。
例えば自社が特許権を保有する技術と全く同じ技術を用いて、他社が模倣品を製造していた場合、明白に直接侵害であると言えるでしょう。
直接侵害は立証が比較的容易で、差止や損害賠償請求が認められやすいです。そのため競合企業の技術動向を早期にモニタリングし、クレームマッピングを通じて直接侵害の有無を確認する作業が欠かせません。
均等侵害
均等侵害は、厳密には特許発明の技術的範囲の構成要件を満たしていないものの、実質的には特許発明と同一の発明を実施していると評価できる場合に成立します。
直接侵害に該当する可能性を避けるために技術改良を加えた製品でも、本質的構成を維持していれば均等侵害の対象となるため、設計変更だけで安心するのは危険です。
逆に自社特許が侵害された疑いがあるとき、一見すると回避されているように見えても均等侵害が適用できる場合があります。
間接侵害
間接侵害とは直接侵害を誘発・助長する部品や方法を提供する行為です。
特許法は、特許発明の実施に不可欠な部材や装置を提供し、かつ提供者が侵害を知り得た場合に責任を負わせる規定を置いています。組立キットや汎用ソフトウェアなどが対象になることもあり、サプライチェーンが多層化、多様化する現代では間接侵害のリスクはどうしても高くなってしまいます。
技術仕様を提供する場合等でも、特許権者の許諾状況や使用目的を確認し、間接侵害を念頭においた慎重な判断をすることが必要です。
判例紹介
特許侵害実務を理解するうえで、最高裁判例は指針となる基準を示しています。
切り餅特許事件
こちらは直接侵害に関する判例で「側面に切り込みを入れた切り餅」の特許について争った判例です。
切り餅を焼く際に、中から柔らかい餅が噴き出して網などにくっついてしまう問題を解決するために越後製菓は切り餅の側面に切り込みを入れることで噴き出しを抑制する方法を開発し、特許を取得しています。
越後製菓の特許取得後、競合の佐藤食品も切り込みを入れた切り餅を発売しましたが、これが特許侵害に当たるとして越後製菓が佐藤食品を訴えました。
越後製菓の特許では、切り餅の側面(狭い断面)に切り込みが入っており、佐藤食品の切り餅には側面だけなく底面や上面にも切り込みがありました。
裁判では「特許請求の範囲」の文言の解釈が争点となりましたが、最終的には、「側面に切り込みを入れる」という特許発明の技術的範囲に佐藤食品の切り餅が含まれると判断され、特許侵害が認められました。
佐藤食品は、最終的に該当する切り餅の製造・販売の停止と約8億円の損害賠償を命じられています。
ボールスプライン軸受事件(最高裁平成10年2月24日)
こちらは自動車用直線運動機構に用いられる「ボールスプライン軸受」の特許を巡る紛争で、均等侵害を巡って最高裁が均等論5要件(①本質的部分でない、②作用効果の同一性、③置換容易性、④公知性の欠如、⑤意識的除外の不存在)を初めて体系的に示した歴史的判例です。
被告製品は本件発明の出願前の公知技術から、本件出願時に容易に推考できた製品であると、特許権者の敗訴で決着しましたが、この判例の与えた影響は大きく、製造現場では設計変更でクレーム要素を一部置き換える際、この5要件を参照して“均等侵害”のリスクを定量評価する実務が定着しました。
特許侵害の判定フロー
特許侵害の疑いが生じたら、合理的かつ漏れのない手順で判定を進める必要があります。以下は大まかな流れを説明したものです。
特許公報の確認
最初のステップは、関連特許公報を洗い出し、請求項や図面を通覧して技術内容を把握することです。
特許検索データベースやAI検索ツールを使えば、出願番号やキーワード、IPC分類をもとに網羅的な公報収集が可能です。関連特許が多数ある場合は、先行技術調査報告書やファミリーパテントを利用して優先度を絞り込むと作業効率が向上します。
特許公報の調査においてAIツールの活用は非常に強力です。近年はAIの精度向上が目まぐるしく、AIを使用したパテントマップ作成サービスや翻訳サービスを活用することで特許文書の調査を非常に効率的に行えるようになりました。
詳しくはこちらをご覧ください。
請求項の解釈
請求項を適切に解釈することは、技術的範囲の高精度に決定する上で重要です。
明細書の詳細な説明や図面を参照しながら、用語の定義、作用効果、構成要素間の関係を読み解きます。当業者が出願時点の技術常識を前提に理解する視点が不可欠で、近年は判例でも客観的技術常識を示す資料の提示が要求される傾向です。
AIを活用した意味解析ツールは補助的に用いると非常に便利ですが、最終的な判断は、専門家の経験と法的知見に委ねる必要があるでしょう。
各類型の成否検討
成否検討の段階では前述した直接侵害・均等侵害・間接侵害のいずれに該当するかを三要件と照合しながら総合的に判断することが重要です。
まずは請求範囲に記載された要件を直接充足するかどうか確認したうえで、均等論の五要件を一つずつ検証し、さらに部品供給などの行為が間接侵害要件を満たすかを整理します。
技術資料、実機サンプル、営業資料、メール証拠など、多角的な証拠収集と分析が重要です。立証責任を鑑み、侵害主張側は技術説明書や実験データによって要件該当性を具体的に示し、防御側は非充足や公知例を提示するなど反証を準備します。
他社への特許侵害を防ぐには
他社の特許を侵害してしまうリスクを最小化するには、技術設計から契約実務まで多面的な予防策を講じる必要があります。下記の二つの方策を組み合わせることが重要です。
異議申立て・ライセンス取得
特許権の有効性を争う異議申立てや、権利者とのライセンス契約締結は、侵害リスクを根本から排除する有力な手段です。
異議申立ては登録後一定期間内に限られますが、無効理由が明確な場合は権利行使を封じ込められます。
一方、権利者が強硬姿勢の場合でも、交渉によってライセンス供与を受ければ合法的に実施できます。
新技術・新コンセプト活用
市場ニーズを踏まえつつ特許網から離れた技術領域へ発想を転換することで、根本的に侵害リスクを回避し新しい価値を創出できます。
例えば既存の機械構造をセンサー制御技術へ置き換える、化学組成をバイオ素材に変更するなど、異分野融合の視点が有効であることが多いです。
技術革新によって特許の適用対象外となれば、ライバルに先駆けて市場展開できる可能性が高まります。
開発ロードマップを策定する際は、技術トレンド分析と特許解析を連動させ、長期的な知財ポジショニングを構築することが推奨されます。
AIの活用
AIを活用すれば、開発の各段階で設計や仕様を多重にチェックすることで特許侵害をしてしまうリスクを大幅に下げることが期待できます。
例えば製品企画段階では、AIの活用が、公開されている特許を意味の近さで自動検索し、見落としや類似技術の重複を防ぐことに役立ちます。
また設計段階では、2Dの図面や設計管理システムにAIを連携させ、保存時に「他社特許と似ている箇所」があれば自動で警告を出すことが可能です。
さらに、試作前には製品仕様と特許の内容をAIが自動で照らし合わせ、問題の有無を短時間で可視化できます。
AIの調査を完全に信用することは危険ですが、人の確認と組み合わせることで精度高く、効率的に特許侵害を避けることができるでしょう。
先ほどもご紹介しましたが、特許調査にAIの導入を検討されている場合は以下の記事を読んでいただくと、AIの導入によってどんなことがどの程度の予算と期間で実現できるのかの参考になります。
特許侵害をされた場合の対策
自社特許が侵害された場合、迅速かつ効果的な権利行使が重要です。差止め、損害賠償、刑事告訴の三方向で戦略を立て、被害拡大を防ぎます。
差止請求
侵害行為の継続を防ぐために、裁判所へ差止仮処分や本案訴訟を提起することが最優先の対策です。
仮処分は迅速性が高く、市場への侵害品流通を早期に阻止できます。成功の鍵は、権利行使の必要性と緊急性を示す証拠です。
特許の有効性と侵害の明白性を併せて立証しなければならないため、事前に無効理由の有無を精査しておくと手続きが円滑に進みます。
損害賠償請求
特許法102条は売上高方式、実施料方式、利益額推定方式の三手法で損害額を算出する枠組みを整えています。
侵害品の利益率や市場シェア、ライセンス料相当額などを裏付ける経済資料を準備し、算定基礎を具体的数値で示すことが、説得力を高めるポイントです。
裁判例では原告が詳細な損害計算表を提出し、被告側に反証を促すパターンが一般的です。海外売上の影響や為替要因も考慮し、経理部門と協力して精緻な損害分析を行いましょう。
刑事告訴
悪質な模倣品ビジネスなど社会的影響が大きい事案では、抑止効果を狙って刑事告訴することも視野に入れましょう。
特許侵害について、故意に特許権、意匠権、商標権、著作権、育成者権を侵害した場合には、原則として10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科される犯罪行為であると位置付けられています。
告訴する場合には警察や検察に対して侵害品の流通経路、営業実態、故意性を示す証拠を揃えて告訴状を提出することが必要です。
刑事告訴の手続きは民事訴訟よりも高い証明水準が要求されるため、技術鑑定書や捜査協力体制を早期に構築し、長期戦を見据えたリソース配分を徹底しましょう。
紛争解決の手続き
ここまで判例等を紹介しましたが、紛争が顕在化した際、当事者は示談、ADR、調停・訴訟の順に検討するケースが多いです。目的に応じて手続きを選択し、時間とコストのバランスを取ることが求められます。
示談交渉
双方が自主的に条件を調整し、裁判外で合意に達する示談は、費用と時間を最小限に抑えられる手段です。
合意形成を円滑に進めるには、請求範囲該当性や損害額評価で一定の妥協点を見出し、将来のライセンス関係に発展させる視野を持つことが重要になります。
文書化した和解契約には、再発防止条項や監査権を盛り込み、合意内容を確実に履行させる仕組みを設けましょう。
裁判外紛争解決手続(ADR)
知財高等裁判所付属の調停や日本知的財産仲裁センターの仲裁は、専門家が関与する柔軟な紛争解決手段です。
仲裁判断は原則として最終的な効力を持ち、国際取引を含む複雑な案件でも執行可能性が高い点が利点です。調停や仲裁では手続きの非公開性が担保され、企業イメージへの影響を抑えることができます。
一方、手続きの種類や案件の複雑さに応じて手数料や仲裁人報酬が発生するため、訴訟とのコスト比較が必要です。
民事調停・訴訟
裁判所を通じた調停や訴訟は、公的な判断によって権利関係を確定できる重要な手段です。
調停は当事者間の合意形成を目指す手続きであり、不成立の場合には、当事者の判断により訴訟に移行します。訴訟では、特許権の有効性や侵害の成否が法的に確定され、判決に基づき、強制執行の手続きをとることが可能になります。
ただし、事案によっては数年単位の長期化や多額の弁護士費用、広範な証拠開示の負担が生じるため、経営判断として非常に慎重な検討が求められるでしょう。
まとめ:AIを活用して知財戦略を強化
本記事では特許侵害の定義と事業戦略を考えるにあたって重要な点について、実際の判例を交えて説明しました。
侵害リスクを抑えるには、特許調査と設計段階での慎重な検証が不可欠です。近年はAIを活用した特許文書の自動解析やクレーム構造の類似性判定が進み、効率的なリスク評価が可能になりました。
AI調査ツールをいかに使いこなせるかが侵害回避と開発スピードの両立において今後ますます重要となっていくことでしょう。
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引用元:株式会社エムニ