
企業価値を創る知財戦略|特許ポートフォリオの構築・分析・活用
2025-05-29
特許調査とは|効率的な進め方を徹底解説
2025-05-30製造業でのAI活用|活用事例と導入法を徹底解説

製造業における生成AIは、特許調査業務や技能伝承、作業分析など、多岐にわたる業務革新をもたらしています。本記事では、具体的な活用事例を説明した後に、AI導入ステップと注意すべき点を詳しく解説します。
製造業で活用されているAI事例紹介
以下では当社や他社で実際に実施された生成AIプロジェクトを4つピックアップし、課題、AI活用内容と成果を簡潔にまとめています。
特許調査業務への活用事例
従来の特許調査では、膨大な文献を手作業で整理・分類する必要があり、時間とコストの面で大きな負担となっていました。仮説を立てても、それを検証するには何日もかかるのが当たり前でした。
さらに、調査のたびに外部委託費用や作業コストが発生し、柔軟かつ迅速な事業判断を下すうえでの大きな障壁となっていたのが実情です。
こうした課題に対して、知財調査とパテントマップ作成に特化した生成AIツール「AI特許ロケット」の導入によって、AIが特許文献を自動で解析し、最短10分で高品質なパテントマップを生成できるようになりました。
これにより、従来数日から数週間かかっていたマップ作成が大幅に短縮されると同時に、国際特許分類(IPC)など標準的な技術分類に加え、自社独自のキーワードや新興技術ワードへの切り替えも容易に対応可能となっています。
仮説を立案した直後にマップを生成し、その結果をもとに必要な修正をすぐに反映できるため、仮説検証のサイクルを従来比で100倍以上のスピードで回すことが運用可能な水準に達しています。
この仕組みは、製造業をはじめ素材、電子機器など幅広い業種で導入が進んでおり、知財戦略の高度化とDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支える重要な武器となっています。
AI特許ロケットCM(YouTube):動画を見る
技能伝承への活用事例
製造現場では、熟練工が長年にわたり培ってきたノウハウや暗黙知が個人の経験に依存しており、技術継承は属人的かつ断片的になりがちです。
特に、熟練工の高齢化と人手不足が重なる中、トラブル発生時に過去の対応事例が記録・体系化されていないために、原因特定や対応に時間を要することが多くなっています。
また、若手作業員は十分な教育機会を得られないことも深刻な課題となっています。
こうした状況を受けて、エムニでは熟練工の経験を生成AIを活用して構造化・言語化する取り組みを開始しました。
具体的には、熟練工と「AI Interviewer」が対話し、その内容を生成AIが整理することで、暗黙知のデータベース化を実現しました。
この蓄積された知識はKnowledge Tree(木の枝のように広がっていく形で関連する内容をわかりやすく整理した図)としてデータベースに可視化され、チャットボット形式のインターフェースを通じて、若手作業員がいつでも検索・参照することができます。
トラブル発生時には、質問を入力するだけで過去の類似ケースや最適解が提示されるため、原因特定から対策実行までの時間が大幅に短縮されました。
この仕組みによって、従来は対面指導やOJTに依存していた技能伝承が、デジタルかつ標準化された形で実現され、組織全体での知識共有が加速されています。
さらに、熟練工の負荷軽減と若手の自律的な学習促進を同時に実現し、教育コストの削減や作業停止時間の短縮にも寄与しています。
作業分析への活用事例
近年、生産自動化の技術やノウハウは進歩しているものの、設備投資がコスト高で追いつかず、いまだに多くの工程が手作業で行われています。
高品質な製品を安定して提供するには、作業者ごとのばらつきを抑える必要があります。そのためには、ネジ締めや物の移動といった基本的な動作を行うじかにゃ方法を定量化して、標準化する取り組みが必要です。
しかし、人や機械・従来型のAIを用いた手法では、この作業分析に多くの手間と時間がかかっていました。
こうした課題に対して、三菱電機は、動画から作業者の骨格動作を捉え、確率的生成モデルで反復動作パターンを抽出してデータを分析するモデルを開発しました。
このAIは、あらかじめ学習用のデータを用意する必要がないため、作業分析にかかる時間を従来比で最大99%削減することに成功しています。
さらに、このモデルを使ってベテラン作業員と新人作業員の動作を比較することで、技能の違いを可視化し、習熟度の把握や教育への活用も可能になっています。結果として、個人差に依存していた現場の技能を、客観的なデータに基づいて伝承・改善する新たなアプローチが実現されつつあります。
設計への活用事例
製品設計においては、強度や剛性、振動特性、質量といった性能要件と、製造上の制約条件を同時に満たす形状を効率よく導き出すことが求められています。
これまではCAE(Computer Aided Engineering:コンピュータ上でシミュレーションや解析を行い、製品の性能や挙動を予測・評価する技術)を用い、シミュレーションと試作を何度も繰り返すことで最適な設計を探ってきましたが、その過程には多くの時間と労力が必要でした。
また、CAEの結果や実験データは非常に価値のある資産である一方で、膨大な情報量や解析の難しさから十分に活用しきれていないケースも多く見られました。
こうした課題に対し、トヨタシステムズは、製品設計時にAIを用いて性能評価を短時間で行えるAI予測システムの作成を行いました。従来のCAEを行うために必要な計算時間を大幅に短縮し、瞬時に性能予測が可能になりました。
また、過去の実験データをほぼ全て取り入れてモデルが構築されているため、過去の実験データを余す事なく活用されています。
また、これまで培われてきた部品の形状の変化などを捉えることが可能となっており、過去の設計ノウハウを活用することにも活用されています。
画像引用:3D-OWL 紹介
製造業へのAI導入5ステップ
製造業におけるAI導入の具体的手順を解説します。
ステップ1:課題の明確化と生成ai活用内容の絞り込み
まず、自社が抱える具体的な課題や改善余地のある領域を洗い出し、AIで解決する意義があるかを検討する必要があります。
たとえば「品質不良の頻発」「検査工程の遅れ」「原材料ロス率の高さ」など、数値で把握できる課題をリストアップし、定量的な目標(不良率△%、生産リードタイム△時間短縮など)を設定します。そのうえで、AIで解決する意義が高く、かつデータが取得しやすい活用内容を絞り込みます。
ステップ2:AIガバナンス体制の構築
AIを安心して活用するには、組織としての運用ルールづくりが不可欠です。データの取り扱い責任やアクセス権限を明確化し、モデル開発から運用までのルールと体制を定めます。生成AIの活用範囲や、トラブル発生時の対応策を前もって決めておくようにしましょう。
ステップ3:モデル作成とデータ基盤の整備
AIモデルの性能はデータの品質と量に大きく左右されます。
製造現場ではセンサーや検査装置、MES(製造実行システム)、ERPなど複数のシステムにデータが分散しているケースが多いため、まずはこれらを統合的に収集・管理する仕組みを整えるようにしましょう。
また、個人情報や機密情報の匿名化・マスキングに対応しておきましょう。
ステップ4:パイロット導入のためのデモ実装
いきなり大規模な実装を目指すのではなく、まずは限定的な範囲で概念実証(PoC)を行うことが重要です。
特定の生産ラインやある製品の製造工程などに絞って実装を行い、導入効果(不良率の低減や検査時間の短縮割合)など定量的に測定し、想定通りの成果が得られるかを検証するようにしましょう。
なお、エムニではこうしたPoCに向けた無料デモ実装も承っておりますので、ご興味のある方はぜひお気軽にご相談ください。
ステップ5:本格的な導入と改善
デモ実装での結果や知見を踏まえ、現場での導入範囲を段階的に拡大します。
運用開始後は、定期的なモニタリングを行い、新たな課題に応じた再学習により、モデル性能の維持・向上を図る必要があります。
現場の作業員と連携して定期的なレビュー会議で成果指標の達成状況を確認して、継続的な改善を図るようにしましょう。
製造業へAIを導入する際の注意点
最後に、AI導入時に必ず確認すべき注意点を整理します。
① 学習データの品質とセキュリティの確保
AIの性能は、学習に用いるデータの質(正確性・一貫性・最新性など)に大きく依存します。学習データにノイズやバイアスが混入したままの場合、AIは予期せぬ誤動作や判断ミスを招く恐れがあります。
また、設計図面や検査結果など機密性の高い情報を扱う場合には、アクセス権管理の厳格化やデータ暗号化・バックアップ体制の構築を徹底し、情報漏洩リスクを最小化しなければなりません。
② AI出力の確認を行うヒューマンチェックと安全設計
生成AIは「もっともらしい答え」を生成する一方、事実誤認を含むリスクも持ちます。
特に品質管理や安全管理などの重要な意思決定に活用する際は、必ず人間の専門家が検証・承認するプロセスを用意し、誤った出力が作業現場に直接影響しないようフェイルセーフ機構を構築する事が欠かせません。
人間が最終的な判断を下せる「Human-in-the-loop」構造を必ず取り入れ、システムが異常を検知した際には速やかに動作を停止し、復旧手順を明示的に定義しておく必要があります。
③ 組織文化への配慮と現場への浸透
新しい技術の導入は、現場の不安や抵抗を引き起こす可能性があります。プロジェクト初期から現場のオペレーターと意見を交わし、目的・効果を共有しながら定期的なフィードバックを設けることが重要です。
そして、導入後も継続して対話の場を持つことで、活用現場での活用状況を把握し、長期的な定着と運用改善につなげるようにしましょう。
④ 法的・倫理的リスクの認識
生成AIの活用では、著作権・特許権などの知的財産リスクや、個人情報を含むデータの取り扱いに細心の注意が必要です。
とくに製品設計や仕様生成では、AIが出力した情報の権利帰属が不明確になりやすく、情報漏洩や第三者権利の侵害といった懸念が生じます。
これらのリスクを未然に防ぐために、社内規定や利用ガイドラインを整備し、法務・情報管理部門と密接に連携しながら、監査可能なガバナンス体制を構築しましょう。
⑤ AIシステムの運用・保守と継続的改善
AIシステムは、一度導入しただけで完結するものではなく、その後も継続的な運用と改善が求められます。製造現場では、環境条件や設備の状態、製品仕様の変化に応じて、収集されるデータの傾向も時間とともに変化します。
こうした変化に対応しなければ、AIモデルの予測精度は次第に低下し、誤判断のリスクが高まります。そのため、AIモデルの精度を維持するには、定期的な性能評価と必要に応じた再学習が欠かせません。
また、システム障害時の対応やモデル更新時のバージョン管理など、各種体制を整備し、関係部門が連携して運用することに注意して下さい。
まとめ:製造業における生成AI活用のポイント
製造業において生成AIは、特許調査、技能伝承、作業分析といった多様な分野で具体的な効果を示しています。
AI導入を成功させるためには、まず解決すべき自社の課題を明確にし、必要なデータ基盤を整備することが不可欠です。
次に、特定の生産ラインや工程でデモンストレーション実装を行い、その効果を定量的に評価することが重要となります。このプロセスにおいては、安全設計や法的・倫理的リスクへの対策を講じ、ガバナンス体制を明確に定めておく必要があります。
これらの要点を確実に実行することで、製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は加速し、持続的な成長を支える鍵となるでしょう。
エムニへの無料相談のご案内
エムニでは、製造業をはじめとする多様な業種に向けてAI導入の支援を行っており、企業様のニーズに合わせて無料相談を実施しています。
これまでに、住友電気工業株式会社、DENSO、東京ガス、太陽誘電、RESONAC、dynabook、エステー株式会社、大東建託株式会社など、さまざまな企業との取引実績があります。
AI導入の概要から具体的な導入事例、取引先の事例まで、疑問や不安をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください。
引用元:株式会社エムニ