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2025-06-21特許FIとは|分類の整理・利用メリットを徹底解説

特許調査の精度と効率を飛躍的に高める可能性を秘めた「特許FI」。しかし、その複雑さから十分に活用できていない場合も少なくありません。
本記事では、特許FIの基本から、活用することで得られるメリット、特許調査における実際の利用方法まで詳細に解説します。
補足:特許調査、および特許調査におけるAI活用については、こちらの記事でも詳しく解説しておりますので、本記事とあわせてご覧ください。
特許FIの基本事項
特許FI(ファイルインデックス)は日本国内の特許文献を扱う上で重要となる分類システムです。まずは、特許FIの定義や国際特許分類(IPC)との関係性、特有の記号体系を理解することから始めましょう。
特許FIの定義と概要
特許FIとは、国際的に用いられている国際特許分類(IPC)を、特許庁が独自に細分化した特許文献の分類システムです。
特許FIの主な目的は、IPCを基礎としつつ、日本国内の技術動向や特許出願の特性に合わせて、効率的かつ詳細な文献検索を可能にすることにあります。
例えば、日本の製造業は様々な技術分野で世界をリードしており、特に精密機械、自動車、電子部品などの分野では他国を上回る技術的な蓄積があります。
このような技術的蓄積が豊富に存在する分野をIPCのみで分類すると、1つのグループに膨大な特許文献が集中し、効率的な特許検索が困難になるのです。
特許FIという独自の分類システムが整備されたのは、このようなIPCの限界を補完し、国内の膨大な特許文献からより的確に関連する文献を絞り込むためだと考えられます。
なお、特許FIは特許庁が日本国内の特許文献を対象として独自に開発した分類システムであるため、海外の特許文献調査には使用できないことに注意しましょう。
FIの記号体系:展開記号と分冊識別記号
FIコードについて解説する前に、まずはIPCの分類システムについて簡単に整理しましょう。
IPCでは、すべての技術分野を以下の表のように分類します。
例えば「A42B1/14」というIPCコードは「セクションA(生活必需品)>クラス42(頭部に着用するもの)>サブクラスB(ハット;頭を覆うもの)>グループ1/14(麦わら帽;その代用品)」と細分化されているのです。
分類名 | 説明 | 具体例 |
IPC(国際特許分類) | すべての技術分野をA~Hの8つのセクションに分類それぞれのセクションをクラス>サブクラス>メイングループ>サブグループという階層構造で細分化 | A42B1/14 |
次に、FIコードについて詳しく見ていきましょう。FIコードは、IPCコードの末尾に「展開記号」や「分冊識別記号」、あるいはその両方を付加する形式で構成されています。
展開記号は、IPCの最小単位であるサブグループをさらに細分化するためのものであり、原則として100から始まる3桁の数字で表されます。
例えば、あるIPCコード「A63B69/00」(特殊なスポーツのための訓練用具または装置)に対して、展開記号「513」が付与されると「A63B69/00, 513」(格闘技)のようなFIコードになり、IPCコードだけでは表現することができない具体的な技術的特徴や態様を区別することができます。
分冊識別記号は、IPCコードあるいは展開記号を含むFIコードによる分類を、さらに特定の観点(用途、構造など)から細分化するために用いられる1文字のアルファベットです。
例えば、FIコード「A63B69/00, 513」に分冊識別記号AやBが付与されると「A63B69/00, 513@A」(相撲)「A63B69/00, 513@B」(柔道)になります。このように分冊識別記号が付与されることで、使用場面に応じた分類が可能になるのです。
要素名 | 説明 | 具体例 |
展開記号 | IPCの最小単位であるサブグループをさらに細分化原則として100から始まる3桁の数字 | A63B69/00, 513 |
分冊識別記号 | IPCまたは展開記号を特定の観点からさらに細分化(I、Oを除く)アルファベット1文字 | A63B69/00, 513@A |
なお、FIの分類は、技術進歩に伴って概ね年に1回〜2回改正が行われます。FIに関する知識が古いまま調査を行うと重要な先行技術を見逃すリスクがあるため、J-PlatPatなどで提供される「FI改正情報」を定期的に確認するようにしましょう。
特許調査にFIを活用する4つのメリット
特許FIを活用することで特許調査の質は大幅に向上します。ここでは、FIを利用することで得られる4つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット1:網羅性向上とノイズ低減
特許調査においてキーワード検索は基本的な手法ではありますが、いくつかの限界も抱えています。
最も大きな課題は同義語・類義語の問題です。
例えば、「スピーカー」の特許を調査する場合、日本語表記の「拡声器」、技術的表現の「電気音響変換機」、上位概念の「音響装置」など、同一の技術でも多種多様な表現が存在します。
特に、製造業では技術用語の標準化が進んでいない分野も多く、企業によって異なる用語が使用される場合もあるため、調査者が想定するキーワードだけでは重要な特許を見落とすリスクが高まるのです。
さらに、検索範囲を適切に制御することも困難です。
具体的な下位概念のキーワードに絞ると重要な特許の検索漏れが発生する一方で、上位概念のキーワードを使用すると関連性の低い特許まで大量にヒットし調査効率が大きく低下してしまいます。
このように、キーワード検索では網羅性の確保とノイズの低減を両立するのは難しいのです。
FIは、これらのキーワード検索の限界を解決に導きます。
FIでは技術分野ごとに体系的に整理された分類により、出願者がどのような言葉で発明を表現していても、その技術的本質が同じであれば同じ分類記号が付与されます。
これにより、出願者および調査者の表現に左右されない一貫した検索や、調査範囲の適切な設定が可能になるのです。
メリット2:過去の特許文献も効率的に調査できる
技術の進歩とともに専門用語も大きく変化し、古い特許文献では現在使われていない表現が多用されていることもあります。特に、製造業分野では、戦後復興期から現在のデジタル化時代まで、技術用語は激しく変化してきました。
このような状況下では、現在の一般的なキーワードで検索しても過去の重要特許を見落とすリスクが高く、かといって現在使われていない専門用語まで網羅して検索することは事実上困難です。このように、キーワード検索には時間的な限界も存在するのです。
FIを活用することで、この時間的な課題を解消することができます。
FI分類は技術内容そのものに基づいて付与されるため、用語の変遷に影響されることがありません。
古い特許文献も現在の分類体系で一元的に管理・検索することが可能であり、さらに、分類の改正時には古い分類と新しい分類が適切に対応付けられます。
現在のFIコードを用いることで、過去に異なる用語で表現されていた同じ技術概念の文献であっても、効率的かつ網羅的に探し出すことができるのです。
メリット3:言葉で表現しにくい発明概念の的確な調査
製造業の技術開発では、形状、位置関係、材料配置など、言語化が困難な技術要素が多数存在します。
例えば、機械部品の複雑な嵌合構造、電子回路の三次元配線パターン、化学反応における分子の空間配置、といった発明概念は、具体的なキーワードだけでは十分に記述・検索することは困難です。
キーワード検索では、こうした構造や機能の微妙な違いを正確に表現できないため、意味的には類似していても語彙が異なる文献の検索漏れが発生しやすくなります。また、「要素Aが要素Bに動的に作用する」といった、関係性に基づく発明も、自然言語のみで検索することは容易ではありません。
FIは、発明の主たる技術構成を基準とし、客観的・構造的な観点から行われます。そのため、発明の言語表現に依存することなく、技術の本質に基づいた検索が実現できます。
FIの活用により、言語による曖昧さを排除し、検索の精度と網羅性を高めることが可能になるのです。
メリット4:AIとの相乗効果による調査の高度化
FIはAIとも高い親和性を発揮します。FIは体系的な分類構造を持ち、特許文書に対して「どの技術分野に属しているか」を厳密に表現できます。
そのため、従来のキーワード検索では曖昧さが残る自然言語処理とは異なり、AIが効率的に学習・処理できる構造化されたデータとして機能するのです。
また、AIを活用することでFIごとに膨大な量の特許の出願数や出願傾向を分析でき、技術動向や空白領域を可視化することができます。
さらに、FIを起点として特許文献を意味的・技術的に近いグループへと自動分類し、FI単体では把握しにくい分野横断的な技術領域の発見も可能です。
エムニでは、特許調査を大幅に効率化し、高速かつ低コストでパテントマップを作成する「AI特許ロケット」を開発しています。詳細は、以下からお気軽にお問い合わせください。
特許FIと他の特許分類(Fターム・CPC)との比較
特許分類にはIPC、FI以外にも重要なものが存在します。ここでは、日本国内でよく利用される「Fターム」、さらに国際的な分類基準である「CPC(共同特許分類)」についてそれぞれの特徴と使い分けについて解説します。
FIとFタームの違い・使い分け
Fタームの大きな特徴は、特定の技術分野に対して、その技術を様々な「観点」(例えば、目的、用途、構造、材料、製法、処理操作、制御など)から細かく分類していることです。これにより、発明を複数の技術的側面から分析し、検索することが可能になります。
FIがIPCを階層的に細分化するのに対し、Fタームは多くの場合、特定のFIの範囲内において、さらに多角的な視点からの絞り込みを可能にする「タグ付け」システムのような役割を担うのです。
そのため、まずFIでおおまかな技術分野を特定し、次に、そのFIが付与された文献群に対して、Fタームを用いて特定の観点からさらに絞り込む、という使い方が一般的になります。
FIとCPC(共同特許分類)の違い・使い分け
CPC(共同特許分類) は、米国特許商標庁と欧州特許庁が共同で開発・運用している特許分類であり、IPCをさらに細分化した詳細な分類体系となっています。
FIとCPCの最も大きな違いは、その管理主体と適用範囲です。
FIは日本の特許庁の管轄であり、主に日本国内の特許文献調査に用いられますが、CPCは米国と欧州という二大特許庁で採用されているほか、他の国の特許庁でも利用が広がっています。
したがって、日本国内の特許に特化した詳細な調査にはFIが適していますが、アメリカやヨーロッパの特許を含む国際的な調査を行う際にはCPCが有効です。
以下の表に、主要な特許分類の特徴を示します。
分類種別 | 主要な利用国・機関 | 詳細度 | 特徴 |
IPC(国際特許分類) | ほぼ全世界 | 標準 | 国際的に統一された階層分類 |
FI | 日本 | 高い | IPCを展開記号と分冊識別記号で細分化日本独自の分類であり、国内文献に特化 |
Fターム | 日本 | 非常に高い | 特定の技術分野を観点(目的、用途、材料等)から分類FIと組み合わせて使用 |
CPC(共同特許分類) | 欧州、米国、その他の国にも拡大 | 高い | IPCを細分化国際的な調査に有用 |
特許FIの具体的な調べ方と検索テクニック
ここまで特許FIの構造と重要性を説明してきました。次に重要なのは実際にFIをどのように特許調査に活用するかということです。ここでは、日本最大の特許情報プラットフォームであるJ-PlatPatを用いた検索方法を中心に解説します。
J-PlatPatで特許FIを用いる検索方法
日本の特許情報を調査する際、中心的な役割を果たすのが特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」です。FIを用いた検索も主にこのJ-PlatPatで行われます。
具体的な手順としては、まずJ-PlatPatの「特許・実用新案検索メニュー」から「特許・実用新案分類照会(PMGS)」を選択します。
出典|特許庁J-PlatPat https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
次に「キーワード検索」のタブを選択し、「FI」のラジオボタンが選択されていることを確認したうえで、調査したい技術分野に関連するキーワードを入力・検索します。すると、そのキーワードに関連付けられたFIコードのリストが表示されるという手順です。
FIコードが得られたら、J-PlatPatの「特許・実用新案検索」に移動し、「検索項目」を「FI」に指定したうえでFIコードを入力・検索を行います。
以上がFIを用いた特許文献の検索手順です。
効果的なFI検索のためのキーワード選定と絞り込みのポイント
特許FIを活用した調査では、適切なFIコードの特定が最も重要です。
FIはキーワード検索の限界を補う分類体系ですが、そのFIコードを見つけるためには依然としてキーワード検索が出発点となります。
特にJ-PlatPatの特許・実用新案分類照会(PMGS)では、入力するキーワードの質がFI選定の精度を大きく左右するため、キーワード戦略は調査成功の鍵と言えるでしょう。
効果的なキーワード検索のポイントを以下の表にまとめました。
ポイント | 説明 |
同義語・類義語の活用 | 同一の技術を表す言葉は複数存在するため、網羅的にFI候補を抽出するためには、同義語・類義語を洗い出し、様々な表現から検索をかけることが重要です。例えば「切断装置」に対しては、「カッター」「裁断機」「シャーリングマシン」といった類似表現が考えられるでしょう。 |
上位概念・下位概念の検討 | 具体的すぎるキーワードではFIがヒットしない場合があるため、まずは上位概念で検索し、そこから技術分類の階層をたどって絞り込むアプローチが有効です。逆に、広すぎる概念ではノイズが多くなるため、下位概念(具体的な表現)を加えて精度を高める必要があります。 |
専門用語の把握 | 技術分野で日常的に使われている専門用語を把握することは、より的確なFI検索に有効です。公報や技術記事、企業の製品カタログなどから実際の用語を抽出することも効果的でしょう。 |
FIハンドブックの活用法と改正情報の確認
J-PlatPatなどでFIコードの候補を見つけたら、そのFIコードが本当に調査対象の技術内容と合致しているかを「FIハンドブック」で確認することが重要です。
検索結果に表示されたFIコードからFIハンドブックを参照すると、そのFIコードがどのような技術内容を定義しているのか詳細な説明を確認できます。
FIコードのリストだけでは、その技術分類の正確な範囲を掴みきれないことがあるため、ハンドブックで定義を確認する作業は誤ったFIコードに基づいて調査を進めてしまうリスクを避けるためにも不可欠でしょう。
さらに、前述の通り、FIは定期的に改正されます。古い情報のまま調査を行うと、最新の技術動向を反映した文献を見逃す可能性があります。
J-PlatPatから提供される「FI改正情報」を確認することで、どのFIがどのように変更されたか、新しいFIがどのようなものかといった情報を得ることが可能です。
改正情報を定期的にチェックし、自身の知識を最新の状態に保つようにしましょう。
まとめ|特許FIを深く理解し、より洗練された特許戦略へ
特許FIは、製造業における特許検索業務および知的財産戦略において非常に強力なツールです。キーワード検索の限界を超え、網羅性の高い先行技術調査を実現することで、開発リスクの低減と技術開発の高速化を実現できます。
また、FIによる体系的かつ詳細な分類は近年注目を集めるAIと相性が良く、その相乗効果により、競合他社の動向把握や自社の技術ポジション分析を大幅に効率化するでしょう。
エムニでは、高速かつ低コストでパテントマップを生成する「AI特許ロケット」、特許翻訳に特化したLLM(大規模言語モデル)など、AIを用いて特許調査を効率化するサービスを提供しておりますので、お気軽に資料請求・無料相談へお申し込みください。