膨大な時間とコストがかかる特許調査。企業の成長に欠かせない作業であるため、仕方なく多くのリソースを割いて取り組んでいるという事業者も多くおられるかと思います。
近年のAI技術の進化は目覚ましく、特許調査にも次々と導入され始めました。AIを活用した特許調査は、従来の調査手法が抱えていた課題を解決し、企業の知的財産戦略を大きく変える可能性を秘めています。
本記事では特許調査にAIを導入するメリットや活用戦略を説明し、最後に弊社の事例を紹介します。
エムニは特許調査を中心とし、製造業のAI活用に関するたくさんの事例と知見を持つ企業です。無料相談に加えて、無料高速デモ開発も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
AIを活用した特許調査で競争優位性が獲得できる
特許調査にAIを導入することでどのような効果が見込めるのか。以下では5つの観点からメリットを紹介します。
コスト削減
生成AIの導入により、特許調査にかかるコストを大幅に削減できます。エムニでは、コストを1000分の1まで削減できた事例もあるほど。AIは、高度な自然言語処理技術を用いて短時間で大量の特許データから検索内容と関連性の高い特許文書を選別し、要約することが可能です。したがって調査に必要な人員の数を減らして人件費を大幅に削減したり、調査員の育成費用を削減したり、といった効果が期待できます。また現状、特許調査を外注している場合はAIを活用し社内で調査を行うことで外注費の削減も期待できるでしょう。
調査効率の向上
AIは、膨大な特許データを高速に処理し、従来の人手では不可能だったレベルの効率化を実現します。文献検索や分類といった反復作業を自動化し、24時間365日稼働することで、調査時間を大幅に短縮することが可能になりました。また人間の調査では疲労による重要な文書や記述の見落としで、再調査が発生してしまうことがありますが、AIはその可能性を最大限抑えることができます。
調査精度の向上
生成AIは、人間の調査員よりも客観的で正確な調査結果を提供することができます。従来の調査では、調査員の経験や主観によって結果が左右されることが多々ありました。安定した調査のためには調査員全員が一定の高い水準に達している必要がありますが、そのための教育にはコストと時間が多くかかります。一方でAIは、大量のデータを統計的に分析し、客観的な評価を行います。またAIは、その他の機械による調査方法と異なり、一度学習した情報を基に継続的に学習し、精度を向上させていくことができるのも重要な強みです。
リアルタイムのトレンド分析
生成AIはデータ処理のスピードが非常に早く24時間稼働できることにより、最新の特許情報をリアルタイムに収集し分析することができます。最新の技術トレンドをいち早く把握することができれば、自社の研究開発の方向性も早く決定でき、競合に対する強みとなるでしょう。また、特許文書の調査を通して競合企業の動向を直接監視し、自社の競争優位性を維持するための戦略を立てることもできます。さらに、特許データだけでなく、論文やニュース記事などの外部情報も合わせてAIで分析すればより詳細なトレンドを把握できます。
外国語特許文書の調査効率化
生成AIは、外国語特許文書の調査を飛躍的に効率化します。自然言語処理により、多言語の特許文書を正確に理解し、キーワード抽出や要約を自動で行うことができるようになりました。機械学習を活用することで、調査する言語に精通した人間でなくとも、膨大なデータから調査対象の特許を迅速に探し出すことが可能です。さらに、生成AIは、特許明細書の翻訳や質問応答も可能にし、調査の幅を広げます。これらの機能により、専門知識がなくとも、短時間で多量の特許情報を網羅的に把握できるようになったのは大きなメリットと言えるでしょう。
従来の特許調査の問題点
以下では実際にどういったことが現状の特許調査で課題として上がっているのかを4つに分けて紹介します。早くAIのソリューションが知りたい方は飛ばしていただいて次の「特許調査の目的ごとの生成AI活用戦略」をご覧ください。
費用と時間がかかりすぎる
従来の特許調査では、膨大な特許データベースから関連する特許を抽出するために、熟練した調査員が複雑な検索式を構築し、一つ一つ丁寧に確認する必要があります。このプロセスは非常に時間と労力を要し、調査費用も高額になりがちでした。特に新規性の高い技術分野や競合が多い分野では、より詳細な調査が必要となり、調査期間が長期化する傾向があります。また熟練した調査員の育成、採用にも多くの時間とコストがかかるため調査を外注するケースも多くありました。
外注費用も決して安くはありません。依頼先や調査目的によって金額は異なりますが、特許の出願を目的とした先行技術調査では、一つの製品や技術周りの調査に対して5万円ほどが相場となっています。そして外国特許の調査となると国内の文書の調査のおよそ1.5~2倍の費用がかかります。このように自社で行うにしても外注するにしても多くの時間とコストがかかるというのが現状です。
人材確保の難易度が高い
特許調査は、複雑な検索式を扱うために高度な専門知識と経験を用いるため、熟練した調査員が必要ですが、その人材を確保することは容易ではありません。特許法や技術分野に関する深い知識に加え、特許データベースの検索スキル、外国語の読解力など、多岐にわたる能力が求められます。さらに、先述したように人材育成にも時間がかかり、コストも高額になります。
また特許調査業務は、膨大な特許文献を読み込み、自社の発明との関連性を判断するといった、非常に高度な専門知識と集中力を長時間要求される作業です。この反復作業は、調査員の身体的および精神的な負担となり、離職率が比較的高いことも人材確保を難しくする要因の一つとなっています。
調査結果にばらつきがある
従来の特許調査は、調査員の経験やスキルに大きく左右されるという問題を抱えています。経験豊富な調査員は、効率的に情報を収集し、正確な調査結果を出すことができますが、新人や経験の浅い調査員の場合、誤った判断や見落としが発生し、調査結果にばらつきが生じることも多くありました。調査する文献の量が非常に多いため分業した方が効率的ですが、調査結果のばらつきが大きすぎると気軽に分業というわけにもいきません。
また調査の反復作業は、調査員の身体的および精神的な負担となり、調査員の疲労度合いによって調査品質が低下することも十分考えられます。
キャッチアップの難易度が高い
特許情報は日々更新されており、最新の特許情報を常に把握することは困難です。特に、技術の進歩が激しい分野では、新しい特許が出願されるスピードが速く、調査に長時間かかっているようでは調査結果のタイムリー性が損なわれる可能性があります。
また、特許データベースの構造や検索機能も頻繁に更新されるため、調査員は常に新しいスキルを習得し続けなければいけません。特許調査に限ったことではありませんが、日々の業務をこなしながら新技術の習得をすることはかなり難易度が高いです。
特許調査の目的ごとの生成AI活用戦略
ここまで特許調査にAIを活用する大まかなメリットと従来の調査方法の課題点を説明しました。ここからはより具体的な内容に移ります。
特許調査といってもその目的は様々です。技術のトレンドを知りたいという前向きな目的もあれば、自社の製品開発の際に特許を侵害していないか確認するために仕方なく調査するという場合もあるでしょう。以下では大きく4つの目的に分けて紹介します。
特許動向調査
特許動向調査とは、特許という形で世に出された技術情報を分析し、特定の技術分野における最新のトレンドや競合企業の動向などを把握するための調査です。これにより、自社の研究開発の方向性決めや、新規事業の立ち上げ、市場参入のタイミングの見極めに役立つ情報を集めることができます。例えば、どの技術が注目されているか、どの企業がその分野で強いのか、といったことを詳しく知ることが可能です。
生成AIを活用した特許動向調査は、特許情報を効率的に分析し、技術の進化や市場のトレンドを把握するための強力な手法です。調査したい技術領域を入力すると大量の特許データを迅速に処理し、被引用回数や権利の範囲などのデータを参照して対象の文書を抽出します。文書ごとに重要度を重み付けして表示させることができるので、調査する文書の量も類似度の上位から順番に効率的に決定することができます。
また生成AIは文書の中身の調査にも有効です。自然言語処理技術を用いて、特許文書から重要な情報を自動的に要約し、分析することができるようになります。
生成AIの活用の幅は文書の抽出と要約だけに留まらず、競合他社や市場の環境を分析し、人間にもわかりやすいように視覚化して表示することができます。例えば、特許出願先、特許出願時期、特許出現件数を3つの軸にとった図(パテントマップ)を自動作成させることで特定の分野における研究開発が活発だった時期と企業を効率的に把握することができるようになりました。
さらに生成AIは機械学習アルゴリズムを用いて、過去の特許データに基づく将来の技術動向を予測することができます。
先行技術調査(公知例調査)
先行技術調査(公知例調査)とは、新しい発明を世に出す前に、すでに同じような発明や技術が存在しないかを確認するための調査です。自社の開発内容を特許として出願すべきかどうか、同じようなアイデアが既に出願・登録されていないかを調べることで、無駄な出願や発明の重複を回避します。
この調査では、既存の特許文献や学術論文、製品などを幅広くチェックし、自分の発明と似ているものがないか、もしあればどの部分が異なるのかを詳しく把握します。調査結果を踏まえ、発明の独自性や強みを再確認できるため、より効果的な特許出願の戦略を立てられます。
近年の生成AIを活用した先行技術調査では、特許出願を検討している技術文書をAIに入力すると、大量の特許文書を高速で処理し、類似度を高精度に評価してくれます。重要度の高い文書から優先的に確認できるため、重要な見落としを最小限に抑えられる点が魅力です。さらに、生成AIによる自動要約機能を使えば、調査員は要約を確認したうえで、必要な文書のみ原文を精読すればよいので、調査業務が大幅に効率化します。
特許を出願する際は、特許庁への出願費や審査請求費用などとして、人件費を除いても一般的に15万円ほどかかります。また、出願後は自社の技術が一定範囲で公開されるため、安易な出願はリスクとなる場合もあります。そのため、先行技術調査によって「特許として保護すべきか」「似た技術・製品がすでに存在しないか」を確認することは非常に重要です。もし似た特許が先に出願・登録されている場合、出願費用や自社技術の公開が無駄になってしまう恐れがあります。
侵害特許調査
侵害防止調査とは、自社の製品やサービスが、他社の特許権を侵害していないかを確認するための調査です。新しい製品を市場に出す前に、万が一他社の特許を無断で使用してしまうと、訴訟に発展し高額な賠償金を支払う可能性があります。そのため、事前に調査を行い、リスクを回避することが重要です。
生成AIは仕様書に基づいて、関連する技術に関する特許文書を抽出し、類似度を評価し特許侵害リスクの高い順に並べることができます。特許動向調査の場合と異なり、文書の見落としが大損害につながるリスクを孕むため調査範囲を最大限に広げてリスクを減らしましょう。またAIに入力するための製品やサービスの仕様書はできるだけ詳細に作成することが重要です。入力する内容が具体的であるほど重要な特許文書を見落とすリスクも小さくなります。
ただし自社の機密情報をAIに入力する際には注意が必要です。AIに入力した情報が競合他社に流出しないような環境が整っているかどうか念入りに確認しましょう。さらにAIはリアルタイムで特許データを監視し、新たな侵害リスクを即座に検出することができます。この監視によって調査してから製品をリリースするまでの間に、新たな侵害リスクの高い特許が追加された場合にも気付ける可能性が高くなります。
無効資料調査
無効資料調査とは、すでに特許を取得している発明が、実は新規性や進歩性といった特許取得要件を満たしていないことを証明するための調査です。対象の特許を無効にするために、既存の技術や文献など、その特許よりも前に公開された「無効資料」を探します。
生成AIを無効資料調査に活用するメリットは調査を効率的に、抜け漏れ少なく行えることです。先述の先行技術調査の場合とほぼ同じですが、AIを活用して無効化したい特許文書と類似度の高い文書を抽出し、優先順位を付けて並べることができます。さらに文書の要点を自動で要約できるため従来と比べて大幅に効率化することが可能です。
エムニの事例|外国公報を含む特許調査業務の効率化
最後に特許調査に関連するエムニの事例を二つ紹介します。
外国公報を含む特許調査業務の効率化
エムニでは特許翻訳に特化したLLMをオンプレミス環境で独自開発しました。この事例の注目すべきポイントは大きく分けて3つあります。
項目 | 内容 |
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GPT-4やGoogle翻訳を超える翻訳精度 | ・オープンソースの生成AIモデルをベースに、独自のカスタマイズ/ファインチューニングを何度も実施 ・汎用モデルを上回る精度の翻訳を実現 |
オンプレミス環境での開発 | ・機密情報をAIに入力する際のセキュリティ課題を解決 ・完全に隔離された環境でAIを使用できるため、情報漏えいリスクを最小化 |
圧倒的なコスト削減 | ・外国特許文書1件あたり約10万円かかる翻訳・調査費用がわずか数十円に ・大幅なコスト圧縮が可能 |
本事例では、Meta社のLLM『Llama-3-70B』に特化分野の特許翻訳データ(600ペア+4,000ペア)を追加学習させることで、特許翻訳の精度を飛躍的に高めました。機械翻訳の一般的な評価指標であるBLEU・RIBESの両面において、DeepLやGoogle翻訳、さらにGPT-4oなどの汎用型LLMを上回る結果が得られています。この取り組みによって、現状10万円以上がかかる外国公報1件当たりの翻訳コストが数十円にまで削減され、特許調査に要する時間の短縮が期待されます。
- BLEU・・・機械翻訳の出力と人間が作成した参照訳との間で、Nグラムが一致した数で算出。一般的に40〜50で高品質な翻訳であると言われる。『訳語の適切性』と『訳語の過不足の有無』を評価できる。
- RIBES・・・機械翻訳の出力と人間が作成した参照訳との間で、共通して出現する単語の出現順序に基づいて算出。『語順の正確さ』を評価する事ができる。
パテントマップの自動生成
こちらは生成AIを活用して、パテントマップを自動生成した事例です。膨大な特許文書を一つ一つ確認して分類し、分布図を作成するのは骨が折れる作業ですが、AIを活用すれば短時間で作成することができます。
パテントマップは調査の目的に応じて、横軸、縦軸をどう設定するのかが変わってきますが、エムニでは横軸に解決したい課題の種類、縦軸に課題解決のためのソリューションをとったパテントマップを作成しました。このパテントマップを見ることで競合の多い領域を避けたり、課題に対してソリューションが揃っていない領域を発見したりすることが容易にできます。要望に応じて課題の粒度を揃えたり、横軸縦軸を変更したりといったカスタマイズも可能です。
まとめ:AI調査員の力を借りて面倒な調査業務にさようなら
生成AIの特許調査への活用はまだ黎明期であり、その可能性は無限大です。自然言語処理や機械学習のさらなる発展に伴い、特許調査はより高度化し専門知識がなくても短時間で高度な分析が可能になることが期待できます。一方でAIの活用範囲が広がれば、AIの出力結果に対する人間の判断や解釈の重要性はますます高まり、AIと人間の協働が不可欠となります。将来的には、AIが特許調査のルーティンワークを担い、専門家はより戦略的な業務に注力することで、イノベーション創出の加速が期待できるでしょう。
本記事ではAIを活用した特許調査のメリットとエムニの特許調査に関する代表的な事例を紹介しました。AIに関してはご要望に応じて柔軟にカスタマイズ可能ですし、期間限定で無料相談、無料デモの開発を受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。ご相談いただく際は、以下のフォームからお申し込みいただけます。