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2025-02-13パテントマップとは?具体的な用途から導入方法まで

特許情報は、現代のビジネスや研究開発において競争力を高めるための重要な資源となっています。しかし、膨大な量の特許文献や関連データに一つずつ目を通すことは骨が折れる作業であり、全体像の把握に時間がかかってしまうでしょう。そこで役立つのが「パテントマップ」です。パテントマップは、特許データを視覚的に整理し、技術動向や市場の状況を一目で把握できるツールとして注目されています。
本記事では、パテントマップの基本的な概念やその活用方法、ビジネス戦略における重要性について例を交えて解説します。記事後半ではエムニが開発したパテントマップ作成サービスを紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
パテントマップの目的と役割
パテントマップを活用する目的は様々です。新規事業を立ち上げる上で参考にしたい、特定の技術分野に強い企業を知りたいなど、特許調査を行いたい動機はいくつも考えられます。
またパテントマップの種類も豊富です。同じデータを使用する場合でも縦軸と横軸の取り方を変えることで表現の仕方は大きく異なります。したがってパテントマップを使用する際は、目的に適したマップを選ぶことが重要です。
以下では主要なパテントマップを目的ごとに紹介します。
業界全体の傾向が知りたい
まずは広く業界全体の分析がしたい場合に役立つマップを紹介します。
特許出願件数や登録件数の推移を可視化することで、業界全体のトレンドを把握することが可能です。
ランキングマップ
ランキングマップは出願人・発明者・国・技術分野などの項目を縦軸にとり、出願件数に基づいてランキングで表示します。特定の業界における主要な企業 (リーディングカンパニー)を把握したい場合などに便利です。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
時系列マップ
時系列マップは出願件数の推移に基づいて、業界の流行や変遷を表示します。特定業界の将来の動向を予測したり、技術のコモデティ化の度合い(参入の難易度)等を把握したい時などに利用可能です。
以下の例では3つの軸にそれぞれ(時間、社名、出願件数)をとることで会社ごとの出願件数の推移が視覚的にわかりやすく表現できています。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
ニューエントリ・リタイアリマップ
こちらのマップは出願情報に基づいて、新規参入時期や継続期間等の参画実態を表示します。特定の業界における主要企業の参画実態を把握したい時などに便利です。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
競合と差別化したい
次に具体的な技術分野について競合を比較したい場合に活用するマップを紹介します。
材料用途マップ
材料用途マップとは縦軸に企業、横軸に競合他社毎の開発アプローチ(材料・用途)等を表示し、 交差する点にその件数を表示したものです。各企業の件数を表示することにより、未開発技術の発見や研究開発テーマの選定に役立ち他社との差別化を図ることができます。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
レーダーマップ
レーダーマップは各企業の出願動向をグラフ化し、技術分野の傾向を表示したものです。朱色、青色の線がそれぞれ特定の技術分野を表します。注目する企業の技術バランスから各企業の技術的に優位性がある分野を把握することができ、競合との差別化や提携先の検討に役立ちます。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
知財戦略策定の参考にしたい
次に自社の知財戦略を考える際に使いやすいマップを紹介します。
課題・解決マップ
課題・解決マップは縦軸・横軸にそれぞれ課題・解決手段の各項目を表示し、交差する点に特許文書の件数を表示したものです。交差する点の件数から、開発があまり進んでいない技術領域を発見したり、研究開発に行き詰まった際、別のアプローチを探したりといった使い方ができます。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
サイテーションマップ
サイテーションマップは他社の出願について、その引用・ 被引用件数を表示したものです。引用回数や出願年の情報から、重要な特許(基本特許)を発見したり、他社の基本特許の保有状況を調べたりすることができます。
以下は縦軸に特許文献が引用された回数、横軸に出願年をとったものです。各企業について何年に出願された特許のうち何回引用されたものが何個存在するかといったことを図示します。被引用回数が多く、出願年が古い特許は、重要な特許の可能性が高いです。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
出願人相関マップ
最後に紹介するのは出願人相関マップです。こちらは他のマップと違い、特定の業界での共同出願の件数をマトリクス状に表示します。特定の業界における企業間の連携度合いを把握することができ、提携先の選定等に利用可能です。
特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)より引用
パテントマップの作り方
ここまでいくつかのパテントマップを紹介しましたが、実際に作る際にはどのような手順を踏めば良いのでしょうか。以下では基本的な手順を説明します。
目的の明確化
まずはパテントマップを作成する目的を明確にします。例えば、自社の知財状況の確認や他社の技術動向の把握、特許取得に向けた類似特許の調査などが考えられるでしょう。上述のようにパテントマップの種類とその活用方法は多岐に渡るため、解決したい課題、調査する範囲をあらかじめ設定することが効果的な活用に繋がります。
また、報告資料としてパテントマップを作成する場合は、報告相手がどんな立場の人であるのか(経営者やエンジニア、外部など)、どの情報が最も重要かを明確にしておくと良いでしょう。
必要なデータの収集
特許情報の基礎データは、特許庁が運営している「J-PlatPat」から無料で取得することができます。
J-PlatPatでは、簡易検索と詳細検索の2種類の検索方法があり、出願人の発明を一覧で閲覧したい場合は、簡易検索で出願人(会社)を選び、検索しましょう。
ただし、パテントマップを作成するときは出願人だけでなく、出願日や技術分野などの情報が重要であるため詳細検索を使用することが多くなります。詳細検索の際は、TOPページ左上にある「特許・実用新案」→「特許・実用新案検索」をクリックしてください。
「選択入力」を選ぶと検索キーワードやオプションを視覚的にわかりやすく設定することができます。細かく条件を入力することで検索対象を絞り込むことが可能です。「選択入力」の右隣にある「論理式入力」では+や-など記号を利用してより厳密な検索ができます。「選択入力」で指定した検索条件を論理式で展開したり、論理式で検索条件を保存し再度同じ条件で検索したりといったこともできるようになるので調査に慣れてきたら積極的に活用していきましょう。以下の表に論理式の例を示しました。論理式について詳しく知りたい方はこちらのINPITの説明をご覧ください。
https://www.inpit.go.jp/content/100867236.pdf
論理式の例 | 主な利用方法・解説 | 想定用途 |
[製造装置/TX]*[自動化/TX] (キーワード検索) | – AND検索「製造装置」と「自動化」の両キーワードを含む文献を取得する。 | ・ロボット制御の先行特許調査 ・自動化設備の研究開発動向の把握 |
[製造装置/TX]+[生産設置/TX] (キーワード検索) | – OR検索「製造装置」「生産設備」のいずれかを含む文献を広範囲に取得する。同義語・類似語(「装置」「設備」など)の表記ゆれに対応できる。 | ・製造業での汎用的な生産設備に関する特許を網羅的にチェック |
[製造装置/TX]-[食品/TX] (キーワード検索) | – NOT検索「食品」関連の製造装置を除外し、それ以外の分野の製造装置を絞り込む。 調査に不要な分野を除外することで、リストのノイズを減らすことができる。 | ・食品業界以外の一般製造装置の先行技術調査 ・分野を特定して効率よく検索 |
製造? (部分一致検索) | – 部分一致「製造工程」「製造装置」「製造ライン」など、「製造」の後に文字が付くパターンを一括で検索できる。 | ・「製造工程」や「製造法」「製造管理」などの語をまとめて拾い上げたい |
[自動車/TX+車両/TX]*[部品/TX+コンポーネント/TX]*[製造/TX+加工/TX] (複合検索①) | – テキスト複合検索 自動車・車両関連の「部品」かつ「製造・加工」に関する特許を一括で取得する。 「OR」「AND」を組み合わせて、関連領域を網羅しつつ精度を向上可能。 | ・自動車部品の製造技術をまとめて調べたい |
[自動車/TX+車両/TX]*[部品/TX+コンポーネント/TX]*[製造/TX+加工/TX]*[B60R/FI] (複合検索②) | – テキスト検索×FIコードFI 「車両の付属品」に関する分類記号「B60R」を活用している。このようにキーワード検索だけでノイズが多い場合、FIを追加して精度を上げることができる。 | ・自動車部品製造における付属品(内装・外装など)を特定して検索 |
※上記の論理式は一例です。他にも出願者、審査官名などの条件を論理式に含むことができます。
またAPIを活用すると、特許データベースと自社のシステムを連携させ、自動的にデータを収集することもできます。プログラムから直接特許情報にアクセスし、必要なデータを機械的に効率よく取得することが可能です。API利用には利用申し込みが必要ですので、詳しくは以下の特許庁の「特許情報取得 API 利用の手引き 」をご覧ください。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/data/document/api-provision/api-provision-tebiki.pdf
マップ作成
データを取得できたらマップの作成に移りましょう。J-PlatPatから取得したCSV形式のデータはExcelで開くことができます。
図示する際に重要となることが分析軸の設定です。とりあえず軸を設定しグラフ化しただけでは図で示したいことが伝わらず、結局元のデータに立ち返って確認を繰り返すことになってしまうことも十分あり得ます。分析軸の取り方はいくつも考えられるため、目的に適した図になるようにじっくり検討しましょう。2次元の図で適したものが見つからない時は、時系列マップで紹介したように3次元の図が効果的かもしれません。
パテントマップ作成時の注意点
データ収集の際に注意すべきことは母集団の範囲とバイアスの排除です。調査範囲が広すぎると、最も注目すべき情報が埋もれてしまいます。一方で、範囲を狭めすぎると、主観的な判断で重要な情報を見落とす可能性に気をつけなければいけません。そのため、最初の検索では広めに検索範囲を設定し、結果が多すぎる場合にキーワードや出願日などの条件を追加して慎重に絞り込みましょう。
またキーワードは一つだけに依存せず、異なる表現を複数用意することが大切です。表現の違いによって重要な文書を見逃すリスクがあるため、事前に複数のキーワードを用意することが求められます。また、検索式にミスがあると調査全体の質が低下するため、再確認は必須です。可能であれば、別の担当者が検索式やキーワードを確認するダブルチェックを取り入れると良いでしょう。
実際にマップを作成する際には、誰が見てもわかりやすい図になっているかが重要です。図の作成者は該当する特許データについての理解が深いため、多少ラベルや説明が省かれていても図を読み解くことができますが、事前知識が少ない人でも理解しやすい図になっているとは限りません。またパテントマップを複数人で分担して作成する際にはそれぞれのマップで色分けや字体等の規則を統一することを意識してください。個人個人が自由に配色を決めてしまうと、あるマップではA社が黄色、あるマップではB社が黄色といった表現の差が生じ、理解に時間がかかったり、誤認してしたりしてしまう可能性が高くなります。
パテントマップ活用の事例
以下では実際にパテントマップを活用して成功した企業の事例を紹介します。
株式会社Surfs Med
株式会社Surfs Medは、変形性膝関節症に対する新しいインプラントを開発する際に、特許情報分析を活用しました。特に重点的に行っていたのはFTO(Freedom to Operate)です。含括的な時系列の分析を通して、他社の知的所有権を侵害することなく自社の技術を市場に投入できることを早期に把握し、事業化に向けた戦略を改良することができました。
引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)
株式会社パームホルツ
株式会社パームホルツは、オイルパーム樹幹を利用した新しい建材技術を持っており、インドネシアとマレーシアへの進出に際して特許情報分析を行いました。その際に活用したものが、同分野における主要出願人の年度別出願件数を可視化したパテントマップです。特許調査によって、自社技術が市場でどのように位置づけられるかを客観的に評価し、その結果を基にパートナーシップの構築や事業戦略の策定に成功しました。
引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)
株式会社バイオメディカルサイエンス
株式会社バイオメディカルサイエンスはバイオテクノロジー分野において生体試料を高速かつ均質に破砕可能な装置の開発に取り組んでいる企業です。装置のニーズを確かめるために特許調査を行いました。課題・解決マップを活用して確認した競合企業との差別化要素を営業で活用したり、自社製品の潜在ニーズに合わせて事業戦略を策定したりと調査結果を多方面に活用しています。
引用:特許情報分析による中小企業などの支援事例(独立行政法人工業所有権情報・研修館)
エムニの事例
ここまで様々なパテントマップとその作成方法を簡単に紹介しましたが、特許文書は膨大なため、パテントマップの作成には多くの費用と時間がかかります。特に大規模な事業では、その傾向が顕著です。
そこでエムニでは得意とする生成AIを活用して、パテントマップを自動生成するサービスを開発しました。膨大な特許文書を一つ一つ確認して分類し、分布図を作成するのは骨が折れる作業ですが、AIを活用すれば短時間で作成することができます。
エムニが作成したのは記事前半で紹介した課題・解決マップです。パテントマップを見ることで競合の多い領域を避けたり、課題に対してソリューションが揃っていない領域を発見したりすることが容易にできます。またご要望に応じて、横軸縦軸をカスタマイズして別のパテントマップを作成することも可能です。
パテントマップ作成だけでなく、AIを最大限活用した特許翻訳サービスもございますので、特許調査にAIを活用したい方はお気軽にご相談ください。ご相談いただく際は、以下のフォームからお申し込みいただけます。
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まとめ:多種多様なパテントマップを使いこなして知財業務を効率化
パテントマップは、膨大な特許データを整理し、技術動向や市場状況を可視化する強力なツールです。マップの活用によって競合他社の戦略を分析したり、自社の研究開発の方向性を見極めたりすることが可能となります。また、新たなビジネスチャンスの発見やリスクの回避といった、戦略的な意思決定を支える役割も果たします。現代の激しい競争環境において、パテントマップを効果的に活用することは、企業の競争力を高める鍵です。ぜひ積極的に活用して未来の成長を見据えたデータドリブンな戦略を実現しましょう。
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