
需要予測 AI|経験と勘に頼らないデータドリブン経営
2025-03-13
「AI x データ分析」で経営戦略の精度が上がる
2025-03-14生成AI x オンプレミス|セキュアかつ柔軟なAI活用の実現

生成AIを使おうと思った時に皆さんが思いつくのはChatGPTやgeminiでしょうか。昨今はAIブームでたくさんの生成AIを手軽に利用できますが、そのほとんどがクラウド環境で動作するものです。
ここ最近、特に製造業や医療などの業界では企業が直面するデータ漏洩リスクやシステム統合の課題を背景に、生成AIをオンプレミス環境で運用する取り組みが急速に注目されています。オンプレミスでの生成AI活用は今や、企業の信頼性と効率性向上に直結する重要な選択肢です。
本記事では、生成AIをオンプレミスで導入する意義と、そのメリット・デメリット、さらに実際に利用可能なローカル生成AIの事例や市場展望について、詳細に解説していきます。
そもそも生成AIが何なのか知りたいといった方はこちらの記事を先にご覧ください。
生成AIとは?|0から1を生み出す仕組みや、活用方法を解説
なぜ「生成AI x オンプレミス」なのか
まずオンプレミス環境とは、企業が自社の施設内にサーバーやネットワーク機器などの情報システムを設置し、自社で運用・管理するIT環境のことです。クラウド環境が2000年代後半に普及し始める前からオンプレミス環境は活用されてきました。多くの企業がオンプレミス環境からクラウド環境への移行を進めてきた中で、セキュリティの観点等から近年再びオンプレミス環境の活用が注目されています。
オンプレミス環境における生成AI活用
生成AIをオンプレミスで導入することは、外部のクラウド環境を利用せず、企業自らが保有する設備上でAIモデルを稼働させることを意味します。これにより、企業内の機微なデータや業務情報を外部に晒すことなく、内部ネットワーク内で完結した処理が可能となります。オンプレミス環境での生成AIは、データセキュリティとシステム最適化を両立する革新的なアプローチです。
クラウドとの比較と優位性
クラウドを介した生成AI利用が一般的な中、オンプレミス方式は先述の通り、企業が自らのネットワーク環境内で運用を完結させる点に特徴があります。以下の表は、クラウド環境とオンプレミス環境の主な違いを示したものです。
比較項目 | クラウド利用 | オンプレミス利用 |
導入コスト | 初期費用が低く、利用量に応じたサブスクリプション料金が発生 | ハードウェアを揃える、モデルをカスタマイズする等、高額な初期投資が必要 |
セキュリティ | 外部ネットワークを介するため、情報漏洩や不正アクセスのリスクが懸念される可能性がある | 社内のみで完結するため、厳格な内部管理が可能で機密性が高い |
システム連携 | 標準APIや外部サービスとの連携が容易 | 自社システムとの統合が柔軟に行え、既存の業務システムと密な連携が実現できる |
拡張性 | スケールアップやリソースの追加が迅速に行える | リソース追加は設備投資に依存する。カスタマイズ性は高く、業務要件に合わせた最適な構成が可能 |
運用管理 | クラウドサービス提供者に依存するため、サービス変更や停止のリスクがある | 自社で管理するため、運用方針やアップデートを自由に決定できる |
「生成AI x オンプレミス」で経営の柔軟性が上がる
ここまでオンプレミス環境で生成AIを使うことについてクラウドと比較しつつ簡単に紹介しましたが、以下ではオンプレミス環境を利用することのメリットとデメリットについて少し掘り下げて説明します。
自社の業務・業態に応じた自由なカスタマイズ
オンプレミス導入の最大の魅力の一つは、企業固有の業務プロセスや業態に合わせた自由なカスタマイズが可能な点です。自社で設備を保有するため、使用するハードウェアからソフトウェアまで、すべてを自社のニーズに最適化して選定・構成することができます。必要に応じてクラウド利用の汎用生成AIモデルよりも精度の高い、自社業務に特化したモデルを作るといったことも可能であるため、オンプレミス利用によってAIの活躍の幅が広がることは間違いないでしょう。
実際にエムニでもオープンソースのLlama 3(後ほど紹介)というモデルをベースにファインチューニングを行い汎用モデルを上回る精度の翻訳モデルを作った事例があります。詳しくはこちらの記事の後半のエムニの事例をご覧ください。
▼特許翻訳に関するエムニの事例はこちら
特許翻訳にAIを導入するメリットを事例付きで詳しく解説
外部ネットワークと接続せずに運用可能
オンプレミス環境では、外部との通信を極力排除する設計が可能なため、機密情報が外部に漏れるリスクが大幅に低減されます。企業内でのみデータが完結するため、情報セキュリティを高い水準で維持できる点は大きなメリットと言えるでしょう。社内専用ネットワークでデータ処理を完結し、外部アクセスを遮断したり、厳格な認証プロセスと内部アクセス制御を設けることで情報漏洩リスクを最小限に抑えることができます。
またネットワークに接続できない環境で生成AIを使いたいといったニーズにも対応しており、そのメリットはセキュリティの向上だけに留まりません。インターネットから遮断された工場でも設備を整えさえすれば、最新性能の生成AIを使うことができる点は大きなメリットと言えるでしょう。
既存システムとの連携の容易さ
多くの企業では、既に確立された業務システムやデータベースが存在しています。オンプレミス環境で生成AIを導入するメリットの一つはそういった既存システムと容易に連携できて、シームレスな情報共有と統合が可能なことです。既存のERP、MES、CRMなどと連携することで、業務プロセスの自動化と効率化に繋がります。また自社内データベースと直接連携することで、リアルタイムのデータ分析や意思決定支援に活用したり、独自のAPIを構築することで、生成AIと社内システム間のデータ交換を柔軟に行うことができるでしょう。
長期的なコスト削減の実現
オンプレミス環境で生成AIを運用する場合、初期投資は高額になるものの、クラウドの継続的な利用料金を回避できます。クラウドで利用する場合の料金は、個人で多少使う程度なら大した金額にはなりませんが、組織的に大規模データを扱う場合には大きな費用になり得ます。オンプレミス環境の場合はAIの利用が長期間になるほど、また規模が大きいほど運用コストは安定し、結果的にはクラウド利用の場合より安く済ませることができるかもしれません。
外部依存の回避
クラウド利用の場合、外部プロバイダーのサービス変更や停止、料金改定などのリスクが存在します。オンプレミス環境では、これらの外部要因に左右されずに運用できるため、企業としての独立性と安定性を確保することが可能です。また継続的な利用料金が発生せず、予算計画が容易になるというメリットもあります。
さらにオンプレミス環境では、社内ネットワークを介して生成AIに直接アクセスできるため、通信速度が非常に安定し、高速な処理が可能です。これにより、リアルタイムの業務処理や大量データの即時分析ができます。データ転送の遅延が少なく、即時に安定した生成AIの結果が得られるため、業務効率の向上やネットワーク障害の迅速化など多くの効果が期待できるでしょう。
オンプレミスで生成AIを導入する際の注意点
オンプレミス環境で生成AIを運用する際には、いくつかのデメリットや注意すべきポイントも存在します。
初期導入コストの高さ
オンプレミス環境で生成AIを導入するには、高性能サーバー群の調達、専門的なネットワーク機器の設置、そして膨大なデータを格納するストレージシステムの構築など様々な初期コストがかかります。特に、多数のGPUを搭載したサーバーは一台あたり数十万円から数千万円に達し、これらを束ねる高速ネットワークの構築も数百万円単位の投資が必要です。これらの設備に加え、AIモデルの開発・運用に必要なソフトウェアライセンスや、高度な専門知識を持つエンジニアの雇用も、初期投資を押し上げる要因となります。
以下の表は初期導入にかかる主な費用です。これらの金額はシステムの規模や現場の設備によって増減するためあくまで参考程度となっています。
費用名 | 内容 | 例 | 費用 |
ハードウェア費用 | サーバーやGPUの購入 | NVIDIA A100 80GB | 400万~1,000万円 |
ストレージ費用 | モデル・データ保存用ストレージ | SSD、HDD、NVMeなど | 500万~2,000万円 |
ネットワーク費用 | 高速LAN・インフラ整備 | 10GbEスイッチ、光回線など | 100万~500万円 |
人件費 | インフラの整備、モデルの調整等に必要な人材 | AIエンジニア・IT担当者 外注費用 | 1,000万~5,000万円 |
設備・環境管理の必要性
オンプレミス環境で生成AIを安定稼働させるには、専用のデータセンターやサーバー室といった物理スペースの確保が必須です。ここでは、高性能サーバー群が発する膨大な熱を効率的に排出し、室温を適切に保つための高度な冷却システムが求められます。また、これらの機器を常時稼働させるための安定した電力供給体制も不可欠です。万が一の停電に備え、自家発電装置やUPS(無停電電源装置)の設置も検討すると良いでしょう。
自社でのメンテナンスの負担
オンプレミス環境において、生成AIシステムを維持管理するためには、ハードウェアの定期的な点検や部品交換、OSやAIフレームワークのアップデート、セキュリティパッチの迅速な適用など多岐にわたる専門的な作業を行わなければなりません。これらの作業は、システムの安定稼働とセキュリティを維持するために不可欠であり、専門知識を持つITエンジニアによる継続的な監視と対応が必要です。そのためオンプレミスでの利用には人材育成や外部委託など、長期的な視点での計画と投資が欠かせません。
オンプレミスで使えるローカル生成AIの事例
オンプレミス環境での生成AI活用を実現するため、各企業や研究機関からは多様なローカル生成AIモデルが提案されています。ここでは、特に注目される3つのモデルについて詳しく紹介します。
Llama 3:Metaによるオープンソースの高性能LLM
Llama 3は、Metaが提供するオープンソースのLLMであり、オンプレミス環境でも高いパフォーマンスを発揮できる設計となっています。Llama 3は、ソースコードが公開されているため企業独自の要件に合わせた柔軟なカスタマイズが可能な点で、オンプレミス導入の最有力候補です。実際にエムニでもこのモデルを元にオンプレでAIを導入した事例がいくつもあります。
Gemma:Google子会社による軽量かつ高性能な生成AIモデル
Gemmaは、Googleの子会社が提供する生成AIモデルで、90億パラメータおよび270億パラメータのバリエーションが存在し、軽量ながらも高い性能を発揮する点が特徴です。軽量性と高性能を両立する点で、オンプレミス環境における生成AIの実用化を支援するモデルです。
Deepseek-R1:中国のスタートアップ企業が作った最新モデル
DeepSeek-R1は、中国のAIスタートアップ企業であるDeepSeek社が開発した、最新の大規模言語モデルです。2025年1月20日にリリースされ、ソースコードも公開されています。DeepSeek-R1の最大の特徴は、その卓越した推論能力にあります。DeepSeek AI社が独自に開発した革新的な学習アルゴリズムと、膨大なデータセットによる学習の成果によってOpenAI o1やgeminiといったClosed LLMと肉薄する性能を実現しました。オープンソースモデルでここまでの性能を実現したモデルは存在しなかったため、業界内で大きな注目を集めました。すでに実用化が進んでおり、エムニでもDeepSeekを活用した事例を取り扱っています。こちらの事例については次の章で紹介します。
各モデルを簡単に表にまとめました。
開発元 | パラメータ数 | 特徴 | |
Llama 3 | Meta | 数百億規模のパラメータ | ソースコードが公開されており、企業のニーズに合わせたカスタマイズが容易 |
Gemma | Google子会社 DeepMind | 90億および270億パラメータ | 軽量設計により、オンプレミス環境での高速処理と低消費電力を実現 |
Deepseek | Deepseek | 6710億 | OpenAI-o1が持つ圧倒的な推論能力をオープンソースで実現 |
エムニの事例:オンプレミス環境で論文調査の効率化
以下では実際にエムニで取り扱っている、オンプレミス環境でLLMを使用する事例を紹介します。こちらの事例は先ほど紹介したDeepSeekで知識蒸留を行ったモデルを活用し、対象の論文リストからトレンド分析や論文の分類を行うものです。
計算機の性能によって変わりますが、およそ1000件の論文を10分程度で分析し、指定した学会等のグループごとに課題トレンドの分布を可視化することができます。課題の粒度は簡単に調整することができ、またそれぞれの課題トレンドに含まれる論文を要約付きでリスト化することも可能です。特定の課題に対してどの技術がどの程度研究されているのかを定量的に把握し、文書を最大限活用したデータドリブンな技術戦略を立てられるようになるでしょう。
ここまでオンプレ環境で論文調査を効率化する事例を紹介しましたが、この技術は論文だけでなく特許文書や社内の技術文書の調査にも応用できます。特許文書を分析することで論文と合わせてより正確にトレンドを把握したり、競合の技術動向を監視したりできれば、戦略の幅が広がることは間違いありません。またセキュリティを気にせず社内文書の分析をAIに任せられることは、オンプレミス環境でAIを活用する大きな魅力です。機密性の高い社内文書を検索し、自社の強みと最新トレンドの分析を並行して行うことで投資や技術導入といった具体的な戦略に役立てていきましょう。
まとめ:LLM利用の古くて新しい選択肢
生成AIをオンプレミス環境で運用するという選択は、一見すると時代に逆行するかのようにも映るかもしれません。しかし、高度なセキュリティ要件、柔軟なカスタマイズ性、そして既存システムとの円滑な連携を求める企業にとって、それはむしろ先進的なアプローチと言えるでしょう。
確かに、初期投資の負担や運用管理の複雑さといった課題は存在します。しかし、各業界における導入事例の増加や、技術革新の加速を踏まえれば、オンプレミスでの生成AIは、企業のDXを牽引し、競争優位性を確立するための重要な戦略となり得ることは間違いありません。潜在的なリスクとメリットを慎重に評価し、自社のニーズに最適なAI運用環境を構築することが、これからの時代を生き抜く鍵となるでしょう。
エムニへの無料相談のご案内
本記事では生成AIをオンプレミスで活用する方法についてメリットデメリットを交えて事例付きで紹介しました。
エムニは製造業に特化したAI導入の支援を行っており、特にオンプレミスでの生成AI活用を得意としております。企業様のニーズに合わせて無料相談を実施中のため、AI導入の概要から具体的な導入事例、取引先の事例など、疑問や不安をお持ちの方は下記のフォームからぜひお気軽にご相談ください。