IoTとAI|組み合わせるメリットから活用事例まで

IoTとAIの融合がもたらすメリットは、高度なデータ分析と活用を可能にし、製造業や物流業界に大きな影響を与えています。

上手く活用することで、異常検知や予防保全、業務プロセスの最適化や需要予測の精度向上が可能となり、企業にとっては利益が大きいと言えるでしょう。しかし、せっかくIoTとAIを導入しても、場合によっては上手く精度が出ずに生産性向上に繋がらない場合もあります。

そこで本記事では、IoTとAIの具体的な活用方法や成功事例を紹介し、最大限に活用するためのヒントをまとめました。ぜひ自社のDXにお役立てください。

IoTとAIを組み合わせるメリット

IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)はそれぞれ単体で導入しても十分役立ちますが、組み合わせることでその効果は格段に大きくなります。IoTは生産ラインの見える化、設備の見える化、製品の見える化など、とにかくデータの収集に強みを持ちますが、収集した膨大なデータを分析するのは簡単ではありません。そこで分析能力に強みを持つAIの出番です。AIのトレーニングには膨大な時間がかかることもしばしばありますが、トレーニング済みのAIを使うだけであればそこまで時間はかからないため、リアルタイムな分析も可能です。

両者を組み合わせることで、業務プロセスの自動化や最適化が可能です。例えば工場の機器に振動センサーを設置し収集した振動データを、異常パターンを事前に学習させたAIに与えることで、異常発生を事前にもしくは発生次第すぐに検知することができます。設備故障による稼働停止を未然に防いだり、定期的な検査やメンテナンスのコストを削減したりと大いに役立つでしょう。またセンサーを作業者に装着していただき、各作業にかかった時間を計測することで業務フローの改善点を発見したり、作業者ごとに改善点を提示したりすることもできるようになっています。

また事業戦略や経営戦略の最適化も可能です。AIは大量のデータを効率的に処理し、パターンやトレンドを特定することができます。IoT技術によって収集した在庫の製品一つ一つの膨大なデータをAIに分析させることで、トレンドや需要を予測、把握しデータドリブンな意思決定が実現できるでしょう。余剰在庫の削減やトレンドに合わせた新製品の開発などの活躍が期待できます。

さらに IoTとAIの連携により、リソースの効率的な活用が進んでいます。例えば、車両のGPSデータを基に最適なルートを自動で提案したり、工場やオフィスの電力使用データを詳細に分析し、AIによる需要予測に基づいて不要な電力の供給を自動で停止することで、大幅な省エネを実現したりすることが可能になりました。この背景には、IoTで収集した膨大なデータをAIが高度に分析し、その結果に基づいてIoTデバイスを遠隔操作する、という新たな仕組みが確立されたことがあります。

IoT AIの実用例

IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)の実用例について製造業を中心にいくつか紹介させていただきます。

トヨタ自動車北海道

トヨタ自動車北海道では生産ラインにおいて、エッジ(ネットワークの端)からデータの蓄積及び分析基盤までを包括するIoTプラットフォームを構築しました。生産ラインの約370の設備を対象にIoTシステムを導入し、収集したデータを活用して設備稼働状態の把握や消費電力の測定を実現しています。

また閉域のモバイル通信を利用することで、工場内設備に出向くことなくオフィス環境や他の工場から遠隔で産業用PCの再起動やデータ送受信制御などの管理をするリモートアクセスも可能です。

データを収集した後は、製品の抜き取り検査による測定結果と設備やラインの稼働情報を突き合わせて検査異常の兆候把握と設備状態の分析を行い、設備の故障や部品交換などについて効率的な処置や時期を判断することに活用する見込みです。

キオクシア株式会社(元東芝メモリ株式会社)

キオクシア株式会社の工場では数千台ある製造装置や検査計測装置から、センサデータや検査計測結果など1日あたり25億件以上、50TBにのぼるデータを収集し、巨大な統合データベースに登録しています。この膨大なデータの分析を可能にしているのがAI/機械学習技術です。AI技術により、製品不具合が発生した際の原因を自動的に推定したり、不良になりそうな状態を事前に検知したりすることに成功し徐々に活用範囲を広げています。

また工場のリアルな物理世界を、デジタル空間に再現し、分析や最適化を行うデジタルツインの取り組みも行っています。デジタル化の対象は製造装置や機械が出力するセンサデータだけでなく人の作業履歴や判断結果、文章も含んだものです。デジタル空間では、前述のA/I機械学習を用いたデータ分析、シミュレーションを用いた最適化や将来予測を行い、その結果をリアル世界にフィードバックすることで、新しい製造プロセスの検証や人材育成などに活用し生産性の向上を実現します。

三井物産株式会社

三井物産株式会社と日立製作所は、配送実務を細かく分析し、納品日時をはじめ、物流センター・拠点位置、走行ルート・時間、渋滞、積荷・滞店時間などから、配送車の大きさ、ドライバー条件などの重要な条件を全て変数化するとともに、熟練者の経験を取り入れた配送計画の自動立案アルゴリズムを実運用に適用しました。

これらのデータの収集にIoT技術は非常に役立っており、さらにAIを分析に活用することで計画の精度を継続的に高める取り組みがなされています。

以上の取り組みにより、従来に比べてトラック台数を最大約10%削減でき、かつ短時間に、熟練者と同等かそれ以上に実行性のある配送計画の立案が可能という効果があることを確認しました。

IoTとAIを導入する際の具体的なステップは?

IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)を導入する際の具体的なステップは以下の通りです。

目的の明確化

目的の明確化はどんなサービスを導入する際にも重要ですが、IoTとAIを導入する際には特に重要です。ここを中途半端にしてしまうと実用性のないデータばかりを大量に収集してしまったり、収集できても活用するシステムが整っておらず活用できなかったりといったトラブルが考えられます。まずは現状分析を徹底し、解決したい経営課題を特定しましょう。

次に課題解決のための目標を定性的かつ定量的に設定します。目標達成度を測るための測定可能な指標を設定することで、計画の具体性が増し、プロジェクトに着手してからのトラブルを大幅に減らすことができるため、この工程を曖昧なままにしないことが非常に重要です。

データ収集の計画

IoTデバイスを使用して収集するデータの種類や方法を計画します。目標達成に向けて必要なデータの種類、どの程度の精度があれば良いのかなどを具体的に決めましょう。この際、リアルタイムで処理するのか、バッチ処理(決められたタイミングで一括で処理すること)で良いのかなどのデータの処理の頻度を具体化しておくと後々デバイスを実際に選ぶときに円滑に進めることができます。

また必要なデータを具体化するのと同時にデータの収集と分析の環境を調査することが導入を成功させる上で後々役に立ちます。サーバー、ストレージ、ネットワーク機器のスペック、台数、設置場所の制約などのハードウェア環境に加えて、ソフトウェア環境を調査することも重要です。OS、データベース、ミドルウェア、開発言語など現状を細かく把握しておきましょう。

ケース次第ではエッジコンピューティング(コンピュータネットワークの周縁(エッジ)部分でデータを処理するネットワーク技術)の導入が適している場合があります。従来のクラウドコンピューティングでは、全ての情報をクラウドに集約しクラウド上の高性能サーバーでデータ処理を行いますが、エッジコンピューティングでは、データ加工や分析など一部の処理をネットワーク末端のIoTデバイス、あるいはその周辺領域に配置したサーバーで行い、加工されたデータのみをクラウドに送信します。リアルタイムの処理に強いことやセキュリティのリスクが比較的低いこと、クラウドサーバーの影響を減らせることといった強みがある反面、コストの増加や運用の煩雑化といったデメリットも存在するため総合的に検討しましょう。

デバイスの選定とインフラの整備 

策定したデータ収集の計画に基づいて、デバイス選定の基準を決定します。性能、コスト、互換性、セキュリティなど複数の観点を総合的に評価することが重要です。センサーやアクチュエーターなど、目的に応じて必要なハードウェアを整えましょう。この際、可能であればPoC(概念検証)を通して実際の環境でテストをしてから選ぶことが望ましいです。また必要最低限の要件に加えて将来的な機能の拡張性やメーカーのサポート体制も考慮して選ぶと後々のトラブルを減らすことができます。

デバイスの選定と並行して、インフラの整備を行うことが重要です。既存の環境と比較してIoTの導入に必要な追加の準備をする必要があります。有線LAN、無線LAN、LPWAなど、デバイスとサーバー間の通信方式やネットワークの構成を検討したり、処理能力、メモリ容量、ストレージ容量などサーバーのスペックを考えて不足分を補いましょう。またデータの管理に関して収集したデータを効率的に蓄積するためのストレージシステムを構築し、セキュリティ対策を講じる必要があります。

AIモデルの準備

データの収集ができたら次は分析するためのAIシステムの準備です。まず、最初に設定した目的とIoTから得られたデータの性質、現状分析の結果などさまざまな要因を考慮してAIモデルに求める要件を決定しましょう。要件に応じて、新たに開発が必要なのかどうかや、開発が必要な場合自社で開発できるのか、外注するのかなどを判断する必要があります。自社の環境や製品の独自性が優れており、他企業と大きく異なる場合には専用に開発されたAIが必要になるでしょう。

また外注については高精度なモデルを短期間で開発することが可能であるというメリットがある一方で自社に技術が蓄積しないことや、情報漏洩の可能性が高まるというデメリットがあります。プロジェクトの規模と期間、自社の環境、コスト、機密性などを総合的に考えて決断しましょう。これは外注先の選定の際にもいえることです。自社が求める基準を優先度をつけて整理し、必要であればデモ開発を依頼して比較検討しましょう。

専門的な知見がなく判断に迷う場合は外部の専門コンサルタントに相談することも選択肢の一つです。

株式会社エムニには製造業向けのAI開発に特化した経験豊富なメンバーが揃っています。期間限定でデモ開発までを無料で承っておりますので、ぜひ一度ご相談ください。ご相談いただく際は、以下のフォームから簡単にお申し込みしていただけます。

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テスト運用

IoTデバイスとAIシステムの統合は、単に両者を接続するといった簡単な話ではなく、データのやり取り、処理、そして最終的なアウトプットに至るまで、API(ソフトウェア同士を繋ぐもの)の緻密な設計と実装が必要です。APIの設計、接続で気をつけるべき点としてバージョン管理とセキュリティ対策があります。バージョン管理を怠ってしまうと予期せぬバグやトラブルにつながるため一旦問題なく動いているように見えても注意が必要です。また異なるサービスを繋ぐ際はセキュリティホール(設計ミスやプログラムの不具合による弱点)が発生しやすいので細心の注意を払いましょう。

IoTとAIの連携ができたら、導入したシステムが正しく機能するかどうか実際の運用環境で評価し、問題点を洗い出します。システムが稼働した後は、定期的なメンテナンスやアップデートが必要です。また収集したデータに基づいて継続的に改善策を講じることが非常に有効であるため、得られたデータは内部のシステムの改善にも積極的に活用していきましょう。

IoT×AI導入の課題と解決策

IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)の導入にはいくつか課題が存在するため以下では主要な課題と課題に対する解決策を示します。

セキュリティとプライバシーの問題

課題: IoTデバイスは常時インターネットに接続されているため、不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まります。特に、デフォルトの認証情報をそのまま使用している場合、攻撃者に容易に侵入される可能性があります。

解決策: セキュリティ対策としては、強固な認証システムの導入や、データ通信の暗号化が重要です。最小権限の原則(各プロセスに必要な最小限の権限のみを付与すること)やゼロトラスト・セキュリティ(すべてのユーザーやデバイス、接続元のロケーションを“信頼できない”ものとして捉え、重要な情報資産やシステムへのアクセス時にはその正当性や安全性を検証すること)を意識し、徹底的な対策を行いましょう。また、定期的なセキュリティアップデートや従業員への教育を通じて、セキュリティ意識を高めることも重要です。

データの質と量の確保

課題: IoTデバイスから収集されるデータは膨大ですが、その質が低い場合、AIによる分析結果も信頼性を欠くことになります。

解決策: データ収集時に適切なセンサーを選定し、データの正確性を確保することに加え、データクリーニングや前処理を行うことで、質の高いデータを用意しましょう。前処理としては欠損値、異常値の処理やノイズの除去が主要な手法としてあります。欠損値や異常値があまりにも多い場合にはセンサーそのものを見直すことも考える必要があるため柔軟に対処することが重要です。ノイズに関してはノイズの種類を細かく分類し、それぞれに丁寧な処理を行うと良いでしょう。

人材育成と組織体制の整備

課題: IoTとAIの導入には専門的な知識が必要ですが、そのような人材は不足しています。特に製造業などでは、この問題が顕著です。

解決策: 社内での人材育成プログラムを実施し、外部から専門家を招くことも有効です。また、IoTやAIに関する研修や資格取得支援を行うことで、人材不足の解消につながります2

株式会社エムニでは従業員への教育を目的としたセミナーを承っております。数々の受講者から高評価をいただいておりますのでぜひ一度ご検討ください。

IoTとAI導入時のコストはどれくらいか?

IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)の導入にかかるコストは、さまざまな要因によって異なりますが、以下に具体的な費用の目安を示します。

IoTの導入には、機器の購入費用、システム開発費用、運用コストが含まれます。具体的には、IoT機器の費用は約750万円程度、人件費は1,000万円以上が一般的です。企業が前年売上高の1〜5%未満をIoT化のための予算としていることが多いです。

AIの導入にかかる費用は、開発や運用に関連する人件費やデータ収集・加工にかかるコストが主な要素です。既存のAIモデルを導入するのか一から開発が必要になるのかによっても大きく変動します。また外部委託するかどうかも重要な要素です。AI開発を外部委託する場合の流れとしては、コンサルティング費用が約40万円〜200万円、PoC(概念実証)作成が約100万円〜数百万円、本開発が月額80万円〜250万円×人月、運用費が月額60万円〜200万円前後×人月とされています。

IoTとAIを組み合わせたシステムを導入する場合、初期投資として数百万円から数千万円の範囲になることが一般的です。特に製造業などでは、設備投資やシステム統合にかかるコストが大きくなる傾向があります。

これらのコストは企業の規模や導入する技術の種類によって大きく変動するため、具体的な見積もりを行う際には専門家との相談が推奨されます。

株式会社エムニでは期間限定でデモ開発までを無料で承っておりますので、自社の場合の詳細な見積もりが知りたい方はぜひ一度ご相談ください。

まとめ:IoTとAIの併用と製造業の未来

IoTとAIの融合は、製造業の未来を大きく変革させる転換点となっています。かつては人の手で行われていた検査や判断が、IoT機器によるデータ収集とAIによる高度な分析によって自動化され、生産性の向上と品質の安定化が実現された事例が次々に生まれ始めました。さらに、予測保全や需要予測など、新たなビジネスモデルの創出も期待できます。IoTとAIは、製造業をデータ駆動型へと大きく転換させ、よりスマートで効率的な生産システムを実現する鍵となるでしょう。今後は、これらの技術を効果的に活用し、新たな価値を生み出すことが、製造業の競争力を高める上で不可欠です。

エムニでは目的の明確化からテスト運用まで一貫して支援を行っており、製造業を中心にたくさんの事例を取り扱っているため幅広くご相談いただけます。ご相談いただく際は、以下のフォームからお気軽にお申し込みください。

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